2024/09/24 相続・遺言
相続放棄の手続きと期限について
本コラムでは、相続放棄の期限と手続きについて簡単に説明します。
1、相続放棄とは
2、相続放棄の方式
3、相続放棄の期限
4、熟慮期間
1、相続放棄とは
相続放棄とは、相続の効果の自身への帰属を消滅させる相続人の意思表示です。
民法939条は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」規定しており、相続放棄を行うと、相続放棄をした者は、相続人でなかったものとして扱われ、被相続人の権利や義務などを一切引き継ぐことがなくなります。
2、相続放棄の方式
民法938条は、「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」と規定しています。
したがって、相続放棄は家庭裁判所への申述によって行わなければなりません。他の相続人に放棄の意思を通知するといった方法では、相続放棄の効力は生じません。
相続放棄は相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所において行う必要があります。
相続の放棄は、撤回することができません(民法919条1項)が、詐欺や錯誤等意思表示の取消原因が認められる場合には、取消すことができます(民法919条2項)。
3、相続放棄の期限
民法915条1項本文は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」と規定しており、相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に行う必要があります。この期間を、熟慮期間といいます。
熟慮期間内に相続の放棄をしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。
なお、民法915条1項但し書きは、「ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と定めており、相続財産が膨大であるために調査に時間がかかるような場合には、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において期間を伸長することができます。
4、熟慮期間
熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①相続人が相続開始の原因事実の発生を知ったことに加え、②このために自己が相続人となったことを知った時とされます(大判大正15年8月3日民集5巻679頁)。
もっとも、相続人が①及び②の事実は知っていたものの、その時点では債務の存在を知らずに、後から債務の存在が明らかになった場合にも、相続放棄が認められないとすると、相続人は不測の不利益を被ることになります。
この点について判例(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)は、
「熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知った場合であっても、右各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当」と判断しました。
このように、①相続放棄をしなかったのが被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、②被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算」されることになります。