2024/09/22 不動産
一時使用目的の借地権
本コラムでは、一時使用目的の借地権について説明します。
1、一時使用目的の借地権
2、一時使用目的の借地権の合意が認められる場合
3、一時使用目的の借地権の効果
1、一時使用目的の借地権
借地借家法25条は、「第3条から第8条まで、第13条、第17条、第18条及び第22条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。」と規定しており、臨時設備の設置その他一時使用のための借地権であることが明らかである場合は、存続期間に関する規定や、更新に関する規定、建物買取請求権に関する規定等、一部の規定が適用されないことになります。
ここにいう臨時設備としては、仮設店舗等の建築物や、イベント等の臨時設備の設置その他一時使用のために一時的に使用する施設等が考えられます。
2、一時使用目的の借地権の合意が認められる場合
⑴ 判例の判断枠組み
一時使用目的の借地権が認められるには、「一時使用のための借地権であることが明らかである場合」という要件を満たす必要があります。
判例(最判昭和45年7月21日民集24巻7号1091頁)はこの点について、
「対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要する」としています。
したがって、上記要素を考慮したうえで、一時使用目的の借地権であるか否かが判断されることとなります。
⑵ 考慮要素
ア 土地の利用目的
借地借家法22条が「臨時設備の設置その他一時使用のため」としていることからも明らかなように、契約上借地権がいかなる利用目的で設定されたものかが考慮されます。
作業やイベント等のための一時的な建物の建築を利用目的としたものであれば、一時使用目的の借地権を肯定する方向に傾き、継続して使用することが前提となる住居のような建物の建築を目的とするようなものであれば、否定する方向に傾きます。
イ 建物の種類、設備、構造等
建物の種類、設備、構造等も一時使用目的の借地権の合意の判断に当たって考慮されます。具体的には、建築された建物の種類・構造が簡単に取り壊しのできる仮設的な建物である場合には、一時使用目的の借地権の肯定する要素となり、反対に堅固建物が建築されているような場合には、否定する要素となります。
裁判例(東京地判平成3年3月27日判タ754号213頁)においても、作業員宿舎として容易に撤去可能なプレハブの仮設建物の建築等が目的とされていた事案で、一時使用目的の借地権と認められたものがあります。
ウ 賃貸期間
借地借家法22条は、「一時使用のため」としており、短期間の賃貸借契約を前提としていることから、賃貸期間の長短は一時使用目的の借地権の成否の判断に当たって考慮されます。
判例(最判昭和45年7月21日民集24巻7号1091頁)においても、「その期間が短期というのは、借地上に建物を所有する通常の場合を基準として、特にその期間が短かいことを意味するものにほかならないから、その期間は、少なくとも借地法自体が定める借地権の存続期間よりは相当短かいものにかぎられるものというべく、これが右存続期間に達するような長期のものは、到底一時使用の賃貸借とはいえないものと解すべき」とされています。
なお、「一時使用」という文言から、一時使用目的の借地権が認められるには、賃貸期間は10年程度が上限であると考えられています(稲本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法(第4版)』(日本評論社 2019)200頁)。
一般的には、期間が短期間であることは、一時使用目的の借地権を肯定する方向に傾け、反対に期間が長期であることは、一時使用目的の借地権を否定する方向に傾ける事情となります。
エ 契約書の記載
契約書に一時使用との文言があるからといって、一時使用目的の借地権と認められるものではありません。
裁判例(東京高判昭和40年2月23日判タ174号148頁)においても、(一時使用目的の借地権の判断については)「土地使用の目的、動機、宅地上に建設する施設の種類、構造その他諸般の事情から判断して、当事者双方が納得の上で賃貸借を短期間に終了せしめることを合意したと認めるに足りる相当の事情のある場合を指すものと解すべきであつて、契約書に一時使用のための賃貸借である旨の文言であるからと言つて、必ずしもこれに拘泥すべきではない」と述べられています。
オ 諸般の事情
上記のほか、敷金や権利金授受の有無や、更新の有無、賃料の金額といった事情も考慮されます。
3、一時使用目的の借地権の効果
一時使用目的の借地権においては、借地権の存続期間に関する規定(3条)、更新に関する規定(4条から6条)、建物再築による借地権の期間延長に関する規定(7条)、更新後の建物滅失による解約等の規定(8条)、建物買取請求に関する規定(13条)、借地条件の変更及び増改築の許可に関する規定(17条)、借地契約の更新後の建物再築許可に関する規定(18条)、定期借地権に関する規定(22条から24条)が適用されません。