2024/08/30 離婚・男女問題
養育費の増減額請求が認められる場合について
本コラムでは、養育費の増減額請求が認められる場合について説明します。
1、養育費の増減額請求が認められる場合について
2、裁判例の紹介
1、養育費の増減額請求が認められる場合について
養育費の分担額が、合意、調停、審判によって定められた場合、当事者はその額に拘束されます。
もっとも、その後、養育費の分担額の決定時点から収入状況や扶養状況が変化した場合には、養育費分担額の増減額が認められる場合があります。例えば、養育費の額の決定後、予期せぬリストラによって、大幅に収入が減少した場合等が挙げられます。
変更が認められるには、具体的には、下記の4つの要件を満たす場合に認められるものと考えられています。
①合意や調停や審判の前提となっていた客観的事情が変化したこと
②事情変更を当事者が予見し又は予見できたものではないこと
③事情変更が当事者の責めに帰すべきでない事由により生じたこと
④当初の決定額での履行を強制することが著しく公平に反するものであること
なお、裁判例においては、上記4つの要件を個別に判断するというよりは、総合的に判断しているものと思われます。
2、裁判例の紹介
⑴事情変更を肯定した裁判例
・広島高決令和元年11月27日
ア 事案の概要
未成年者の父(抗告人)が、未成年者の母(相手方)に対し、和解条項に基づく養育費の額(月額8万円)を減額するように求めた事案です。
減額の理由としては、抗告人が定年退職したこと、再婚相手との間に子をもうけたこと及び抗告人が定年退職後の再就職先を退職して無職になったことが主張されました。
原審は、定年退職したことは事情の変更にならないが,抗告人が再婚相手との間に子をもうけたこと及び抗告人が定年退職後の再就職先を退職して無職になったことは事情の変更になり得るとした上で、一定期間を月額4万円、以降は月額6万円と減額変更する判断がなされていました。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「子の監護に要する費用の分担について協議又は審判がされた場合であっても,家庭裁判所(及び抗告裁判所)は,必要があると認めるとき,具体的には,その協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じ,従前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には,事情の変更があったものとして,協議又は審判による定めを変更することができる(民法766条3項)。」との一般論を述べました。
その上で、「予測された定年退職の時期は,本件和解離婚当時から10年以上先のことであり,定年退職の時期自体,勤務先の定めによって変動し得る上,定年退職後の稼働状況ないし収入状況について,本件和解離婚当時に的確に予測可能であったとは認められないのであって,本件和解条項が,定年退職による抗告人の収入変動の有無及び程度にかかわらず,事情の変更を容認しない趣旨であったとは認められない。したがって,本件和解離婚当時,抗告人において定年退職の時期を予測することが可能であったことは,定年退職による抗告人の収入減少が事情の変更に当たることを否定するものではない。」として、本事案では、定年退職による収入減少についても事情の変更に当たると判断し、最終的な変更後の養育費としては、一定期間は月額3万円、以降は月額2万円としました。
ウ 解説
本事案で、裁判所は「本件和解条項が,定年退職による抗告人の収入変動の有無及び程度にかかわらず,事情の変更を容認しない趣旨であったとは認められない」ことを前提に、定年退職の時期を予測することが可能であったことは、定年退職による収入減少が事情の変更に当たることを否定するものではないとしています。
定年退職による義務者の収入減少が事情変更と認められるか問題となる場合に参考になります。
⑵ 事情変更を否定した裁判例
・東京高決平成19年11月9日
ア 事案の概要
未成年者1人につき月額2万2000円を支払う旨の調停が成立した後、相手方が、未成年者らの養育費を1人につき月額1万1000円に減額するよう求めた事案です。
減額の理由として相手方は、借金の返済が多くなったこと、税金も未払になっていること、トラックのレンタル料を支払うようになったことを挙げていました。
原審は、相手方の養育費減額の申立てを認め、相手方が支払うべき養育費の額を未成年者1人につき月額1万5000円に変更する旨の審判を行いました。
イ 裁判所の判断
裁判所は、まず収入の減少について「経費が約134万円,社会保険料が約76万円増加したことから,合計で約200万円減少したことが認められ,それに伴って養育費の算定の基礎となる相手方の総収入も減少したことが認められる。そして,この総収入の減少の原因となった経費の増加は月額10万5000円のトラックのレンタル料の支払によるものであり,社会保険料の増加は婚姻と養子縁組によるものであると認められる。」として、合計約200万円の収入減少があること、その理由が、①トラックのレンタル料で及び②婚姻と養子縁組による社会保険料の増加であるとしました。
その上で、別件調停の成立時において、相手方は既に再婚し,再婚相手の長女と養子縁組をしていたこと、当時仕事に使用していた自己所有のトラックを買い換えるか又は会社からトラックをレンタルで借りるかしなければならないという事情を認識していたことから、「総収入の減少についても相手方は具体的に認識していたか,少なくとも十分予測可能であったというべきである」として、予測可能であったもの判断し、これをもって養育費を減額すべき事情の変更ということはできないと結論付けました。