相続・遺言

2024/09/25 相続・遺言

単純承認とは

 

 本コラムでは、単純承認について、簡単に説明します。

 

1、単純承認

2、法定単純承認(単純承認とみなされる事由)

⑴相続財産の全部又は一部を処分した場合

⑵熟慮期間内に限定承認又は相続放棄をしなかった場合

⑶限定承認又は相続放棄後の相続財産の隠匿等をした場合

 

1、単純承認

 民法920条は、「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」と規定しています。そのため、単純承認した相続人は、一身専属的な権利を除いて、被相続人の権利義務を包括的に承継することとなります。

 単純承認がされると、相続財産の内、債務の方が多いような場合であっても、積極財産の範囲に限定されずに承継され、債務との関係では、相続人の固有財産も責任財産となります。

 

2、法定単純承認(単純承認とみなされる事由)

 民法921条は、相続人が単純承認をしたものとみなされる三つの類型を規定しています。

 以下、一つずつ見ていきます。

 

⑴相続財産の全部又は一部を処分した場合

 民法9211号は、単純承認したものとみなされる事由として「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」と規定しています。

ア 処分とは

 ここにいう、「処分」には、売買や贈与といった法律上の処分行為だけでなく、相続財産の物理的な処分(取り壊し等)も含まれます。

 なお、但し書きで「保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」と規定されていることから、保存行為及び602条に定める期間を超えない賃貸は1号の処分に当たりません。

 

イ 処分の対象

 処分の対象は、相続財産である必要があります。

 したがって、債務を相続人の固有財産から弁済した場合には、相続財産の処分に当たらないことから、1号の「処分」に当たりません。

 生命保険金について、受取人に相続人が指定されていた場合には、同生命保険金は相続人の固有の財産となることから、同人がこれを受け取る行為や受け取った金銭を処分する行為も当然1号の「処分」には当たりません。

 

ウ 処分の時期

 処分の時期については、明文の規定はありません。もっとも、限定承認や相続放棄が行われた場合には、その時点で限定承認や相続放棄の効果は確定することから、その後の処分によって、単純承認とみなされることは不自然であるため、処分は限定承認や相続放棄の前のものが対象となると考えられています。

 判例(大判昭和5426日民集9427頁)においても、「相続人カ一旦有効ニ限定承認又ハ放棄ヲ為シタル後ニ於テ相続財産ヲ処分シタル場合に適用セラルヘキ規定ニ非ス」として、限定承認或いは相続放棄後の相続財産処分の場合には1号の規定が適用されないものとしています。

 

エ 処分時に相続開始の認識がなかった場合

 処分時に、相続開始の事実を知らなかった場合にも、単純承認したとみなされるかが問題となります。

 この点について、判例(最判昭和42427日民集21巻3号741頁)は、

たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により単純承認を擬制することは許されないわけであつて、この規定が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない

として、1号の規定が適用されるには、相続人が相続開始の事実を知りながら相続財産を処分したか、または、相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要すると述べています。

 したがった、相続人が相続開始の事実を知らなかった場合には、(相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたような場合を除き)単純承認したものとはみなされません。

 

⑵熟慮期間内に限定承認又は相続放棄をしなかった場合

 民法9212号は、単純承認がみなされる事由として「相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。」を規定しています。

 民法9151項は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と規定しているため、原則として、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、限定承認又は相続の放棄をしなかった場合には、単純承認をしたとみなされることになります。

 なお、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①相続人が相続開始の原因事実の発生を知ったことに加え、②このために自己が相続人となったことを知った時とされます(大判大正1583日民集5679頁)。

 

⑶限定承認又は相続放棄後の相続財産の隠匿等をした場合

 民法9213号は、「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」と規定しています。

 限定承認又は相続放棄後であっても、相続人が、①相続財産の全部若しくは一部を隠匿した場合や、②私にこれを消費した場合、③悪意で相続財産の目録に記載しなかった場合に、単純承認とみなされます。

 

ア 相続財産の全部若しくは一部を隠匿した場合

 相続財産の全部もしくは一部を、容易に他人が認識できないようにする行為を行った場合が、これに当たります。裁判例(東京地判平成12年3月21日判タ1054号255頁)においては、「相続財産の「隠匿」とは、相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為」とされています。

また、そのような「隠匿」行為の故意も求められ、この「故意」について、前掲裁判例においては、「その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要があるが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はない」とされています。

なお、学説においては故意についてこれと異なった見解をとるものもあります。

 

イ 私にこれを消費した場合

 相続債権者の不利益になることを承知の上で、ひそかにこれを消費した場合がこれに当たります。「消費」は、売買等の法律上の処分のほか、事実上の処分も含むものと考えられています。

 

ウ 悪意で相続財産の目録に記載しなかった場合

 「悪意で相続財産の目録に記載しなかった場合」の前提として、相続人が目録作成義務を負っていることが必要となります。そのため、限定承認の場合に限られ、相続放棄の場合には問題となりません。

 

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