2024/09/12 離婚・男女問題
財産分与において、相続によって財産を取得していた事情が考慮された事例
本コラムでは、財産分与において、相続によって財産を取得していた事情が考慮された裁判例(東京高決令和4年3月25日判タ1510号200頁)
1、財産分与と相続によって取得した財産
2、事案の概要
3、原審の判断
4、抗告審の判断
5、解説
1、財産分与と相続によって取得した財産
清算的財産分与は、婚姻中に夫婦がその協力によって得た財産を婚姻の解消に当たって清算するものであるため、婚姻中に夫婦が協力して得た財産が清算の対象財産となります。「協力」については、個々の財産毎に具体的な協力を要するというものではなく、婚姻中に夫婦が取得した財産であれば、基本的には財産分与の対象財産に含まれます。
他方で、夫婦の一方が、第三者から無償で得た財産、具体的には相続や贈与で得た財産については、夫婦の協力で得た財産ではなく、各自の特有財産(夫婦別産制を示す民法762条1項の「特有財産」とは意味が異なります。)となり、清算的財産分与の対象財産とはなりません。
もっとも、相続により取得した金銭であっても、同金銭が預貯金口座等で生活費の入出金と混在したような場合には、共有財産と特有財産を区別することができなくなり、特有財産の認定が難しくなります。
本コラムで取り上げる裁判例(東京高決令和4年3月25日判タ1510号200頁)は、相続によって取得財産について、財産分与基準時に存在する特有財産部分が明確でない事案において、これを「一切の事情」(民法768条3項)として考慮したものであり、財産分与において相続で取得した財産が存在するケースを検討するうえで参考になります。
2、事案の概要
婚姻期間が30年以上あった元夫婦の財産分与が問題となった事案です。
夫は、婚姻期間中、夫の父から相続した預貯金(約2880万円)は特有財産であり、財産分与の対象財産から除かれるべきであると主張しました。
3、原審の判断
原審(東京家審令和3年11月25日)は、夫名義の定期預金の約970万円については、夫が夫の父から相続した預金が継続して維持、増殖されてきたものであると認められるとして、夫の特有財産としました。
他方で、それ以外の部分については、相続した預金が、基準時における残高の中に残存していたことを裏付ける資料はないといった理由で、特有財産の主張を認めませんでした。
そして、最終的には、夫名義の資産を約1億1138万円と認定したうえで、同額の2分の1から申立人名義の資産を控除し、約5441万円を支払うべきと判断しました。
4、抗告審の判断
抗告審は、原審と同様に(原審において定期預金につき特有財産と判断された部分を除き)、相続した預貯金の残額については、基準時における残高の中に残存していたことを裏付ける資料はないと判断しました。
もっとも、抗告審は続けて、
「もっとも、抗告人(夫)の相続した2882万7500円の預金は高額であり,相手方には収入がなく,一方で抗告人の基準日までの収入に照らして,同相続預金の取得は,後記(3)の番号2-6の預金において考慮する部分を除き,資料上は特定できないものの,基準日における抗告人名義の財産を増加させ,あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから,それを本件における財産分与において,合理的な範囲で考慮するのが相当であるので,後記認定のとおり,上記相続預金の取得の事実を財産分与における一切の事情として考慮することとする。」と述べ、「一切の事情」として考慮するとしました。
その上で、
「父死亡による相続により約2883万円もの多額の預金を相続しており,上記3(3)の番号2-6の預金において考慮した約888万円の預金を控除しても,約2000万円の預金を取得していたものであるから,これらの預金により,基準時財産が増加し,あるいは支出を免れたことが推認されるところ,これらの事情のほか,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,抗告人から相手方に対し,財産分与として5000万円を支払うものとするのが相当である。」として、支払うべき額を5000万円と判断しました。
5、解説
本事案では、相続した財産の一部について、特有財産としては認定できないとしつつ、多額の預金を相続した事実から、基準時の(共有)財産を増加させたこと、或いはこれにより支出を免れたことを推認し、これを「一切の事情」(民法768条3項)として考慮し、支払うべき額を減額しています。
相続した財産が特有財産と認められるかが争われるケースは実務上も少なくなく、そのようなケースでの判断として参考になります。