不動産

2024/09/10 不動産

ゴルフ練習場の土地賃貸借と借地借家法の適用について

 

 本コラムでは、ゴルフ練習場の土地賃貸借と借地借家法の適用について、説明します。

 

1、土地賃貸借における借地借家法の適用について

2、ゴルフ練習場の土地賃貸借を巡る裁判例の紹介

 

1、土地賃貸借における借地借家法の適用について

 土地の賃貸借について、借地借家法の適用対象となるには、「建物の所有を目的とする」ものであることが要件となります。

 判例(最判昭和42125日民集21102545頁)においては、「建物の所有を目的とする」とは、「借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合」とされており、建物所有が主たる目的である必要があります。

 以下では、ゴルフ練習場のための土地賃貸借契約に借地借家法の適用があるかが争われた裁判例を紹介します。

 

2、ゴルフ練習場の土地賃貸借を巡る裁判例の紹介

⑴否定事例

・最判昭和4212521102545

 裁判所は、

「借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」、とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を築造し、所有しようとする場合であつても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、右に該当しないと解するのが相当である。」

との判断枠組みを示したうえで、

 「(賃貸借契約の)目的は当事者間に争いがないように右土地をゴルフ練習場といて使用することにあつたというのであるから、これを社会の通念に照らして考えれば、その主たる目的は、反対の特約がある等特段の事情のないかぎり、右土地自体をゴルフ練習場として直接利用することにあつたと解すべきであって、たとえその借地人たる被上告人Bが当初から右土地上に業としてゴルフ練習場を経営するのに必要な原判決判示のような事務所用等の建物を築造・所有することを計画していたとしても、それは右土地自体をゴルフ練習場に利用するための従たる目的にすぎなかつたものといわなければならない」

と判断しました。

 この判例では、賃貸借契約の目的が、土地をゴルフ場として使用することにあったという点を認定したうえで、事務所用等の建物の築造・所有については、土地をゴルフ練習場に利用するための従たる目的に過ぎないとして、主たる目的が建物所有にあるものではないことを理由に借地借家法の適用がないものと判断しています。

 

⑵肯定事例

・名古屋高裁金沢支判令和2930日判時250061

ア 事案の概要

 賃借人が賃貸人から、昭和52年ごろ、対象となる本件土地をゴルフ練習場として使用する目的で賃借し、昭和56年から昭和57年にかけて総額1億2000万円をかけ、雨風を避けるための屋根と3面壁を備えた鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建の堅固な構造物である大型遊技場(打席棟)を建築しました。さらに、賃借人は、平成2年に約8000万円を費やして室内練習場及びポンプ室を建築しました。

 その後、平成2611月頃、賃貸人、賃借人間で、土地賃貸借契約書が作成されました。

 

イ 裁判所の判断

(ア)原審(金沢地判令和2330日判時250063頁)

 原審は、

ゴルフ練習場として使用する目的でされた土地の賃貸借は、後記特段の事情のない限り、建物の所有を目的とする賃貸借とはいえず、借地借家法(旧借地法)の適用を受けないものの、上記条項にいう建物に当たるような形式のゴルフ練習場を建築し、所有する目的で土地の賃貸借をすることが契約当事者間で特に合意された(この合意を以下「反対の特約」という。)等の特段の事情があると認められる場合には、建物の所有を目的とする賃貸借にあたり、借地借家法(旧借地法)の適用を受けると解するのが相当である」という判断枠組みを示したうえで、

 本件については、

「昭和56年から昭和57年にかけて新築された本件建物(打席棟)の形態や構造、規模等からすれば、本件建物は、借地借家法2条1号(旧借地法1条)にいう「建物」に当たるものと認められる。」とし、同事実に加えて、「本件ゴルフ練習場の継続的な運営上必要不可欠の施設となったこと、前示のとおり、被告は、本件建物の巨額な新築費用を金融機関からの借入金で賄い、本件各土地を含む本件ゴルフ練習場の敷地の当時の所有者であるP4及びP1は、当該敷地に同借入金債務のための担保権を設定することを承諾したこと、P4は、被告の当時の取締役でもあり、これらのことを熟知しており、かつ、その後も本件各土地の地代を収受していたこと等

等の諸事情を踏まえると、「本件各土地は、本件建物の新築に伴って、ゴルフ練習場としての使用と本件建物の敷地としての使用がともに主たる目的となったものと認められ、また、P4と被告は、昭和57年頃、明示又は黙示的に、反対の特約を伴う新規の建物所有目的の土地賃貸借契約の締結又は本件土地賃貸借契約1の目的を建物所有に変更する合意をしたものと認められる」と判断しました。

 さらに、平成2611月に取り交わされた賃貸借契約書についても、締結時点においても、従前と同様に、本件建物は、本件ゴルフ練習場の継続的な運営上必要不可欠の施設であり、本件各土地は、ゴルフ練習場としての使用と本件建物の敷地としての使用がともに主たる目的となっていたこと、賃貸借契約書の記載(借地借家法に基づき、上記のとおりの土地賃貸借契約を締結する旨の記載等がある)等から、建物所有目的を認め、借地借家法の適用を受けるものと判断しました。

(イ)控訴審(名古屋高裁金沢支判令和2930日判時250061頁)

 控訴審も以下のように述べて、原審同様に、借地借家法の適用を認めました。

「本件建物の構造や規模、本件建物が本件各土地のうち本件土地2の全般に渡って建てられていること、本件建物の建築費用は総額約2億円であり、同費用は金融機関からの借入金により賄われ、同債務を担保するために本件各土地にも担保権が設定されていることに加え、本件土地賃貸借契約2の契約書上も、本件建物の所有を目的とすること及び借地借家法の適用があることが明示されていることからすれば、本件建物は、昭和56年から昭和57年にかけて新築された時点で既に借地借家法2条1号にいう「建物」の実体を備えていたと認められ、かつ、遅くとも本件土地賃貸借契約2が締結された平成26年11月の時点においては、当事者間においても本件建物の所有を目的とすることが合意されていたといえるから、昭和42年最高裁判決にいう「反対の特約がある等特段の事情」があるといえる」

 

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