離婚・男女問題

2024/09/09 離婚・男女問題

未払い婚姻費用と財産分与について  

 

 本コラムでは、過去の未払い婚姻費用と財産分与について説明します。

 

1、財産分与とは

2、婚姻費用とは

3、未払い婚姻費用と財産分与

4、裁判例

5、おわりに

 

1、財産分与とは

 財産分与請求権とは、離婚後、夫婦の一方が他方に対して、財産の分与を請求することのできる権利です。

 民法768条1項は、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と定めており、裁判上の離婚についても、同規定が準用されている(民法771条)ことから、協議離婚及び裁判上の離婚のいずれにおいても、請求することができます。

 財産分与について、当事者間で協議が調わない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法768条2項)。もっとも、その際の分与額を決定するに当たっての基準ついては、「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」(民法768条3項)とされています。

 

2、婚姻費用とは

 民法760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めており、婚姻共同生活の維持費用である婚姻費用を夫婦が分担すべきであるとしています。

 婚姻費用とは、具体的には、夫婦および未成熟子を含む婚姻共同生活を営むうえで必要な一切の費用を指し、衣食住の費用はもとより、医療費、娯楽費、交際費、老後の準備(預金や保険)、さらには未成熟子の養育費と教育費などが広く含まれる(泉久雄『親族法』111頁(有斐閣、1997))ものとされています。

 夫婦は、自身と同等程度の生活を保持する義務(生活保持義務)を負っているためです。

 婚姻費用は、多くの場合、別居期間中の生活費の負担という形で、問題になります。

 

3、未払い婚姻費用と財産分与

 上記のとおり、財産分与と婚姻費用は、前者は離婚後、婚姻生活中に形成した財産をどのように分割するかという問題なのに対し、後者は婚姻生活中の生活費の問題であり、別物です。

 しかしながら、財産分与は、「その他一切の事情を考慮して」、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法が定められるところ、過去の未払いの婚姻費用がその他一切の事情の一つとして、財産分与の額の決定に当たって考慮されることがあります。

 この点について、判例(最判昭和531114日)は、別居以来7年以上にわたり、自己及び二人の子どもの生活費、教育関係費として合計約1000万円を支出したが、他方配偶者は一切これを負担しなかった事案において、

「裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」として、

過去の生活費、教育費の清算相当額として金400万円を分与額として認めた原審(東京高判昭和53227日民集3281542頁)の判断を正当としました。

 

4、裁判例

⑴東京地判平成9624

 婚姻関係が破綻した後の婚姻費用相当額を財産分与において考慮できるかが問題となりましたが、裁判所は、

「婚姻関係が破綻した後においても、婚姻費用分担請求権は認められるものであるから、離婚に際しての財産分与において、未払婚姻費用を考慮することは可能である。」

として、考慮することを認めました。

 もっとも、

「婚姻費用分担は、本来は婚姻関係を継続することを前提としたものであるから、婚姻関係が破綻して離婚訴訟が係属している場合には、その金額の算定に当たっては考慮が必要である。」と述べています。

 その上で、婚姻費用の未払い額が1168万円よりも実際には高額になる(大学授業料や母屋の修繕費が考慮されるべき)としつつも、「破綻した夫婦関係においても全額を認めるのは相当でない」として、1168万円の限度で考慮するのが相当であるとして、同額を財産分与額に加算するという判断をしました。

 

⑵東京高決令和2102日民商法15861465

 権利者が義務者に対し、調停の申し立て前から、(メール等で)婚姻費用分担金の支払いを求めており、これに対し、義務者が一部を支払っていたという事案で、裁判所は、「不足分の清算の要否は手続の迅速性が要請される婚姻費用分担審判や扶養料の審判においてではなく離婚に伴う財産分与の判断に委ねるのが相当と解される」として、過去の(調停申し立て前の)不足分については、財産分与において判断されるべきとしました。

 この事案では、婚姻費用分担の「始期」が一つの問題となっていましたが、調停申立て前の時期の不足分については、財産分与において判断されるべきとした点に特徴があります。

 

5、おわりに

 以上のとおり、未払い婚姻費用については、財産分与において考慮されることがあります。もっとも、常に考慮されるものとは限りませんし、未払い婚姻費用額の半分程度とされるべきとする考えもあるため、注意が必要です。

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