相続・遺言

2024/09/05 相続・遺言

遺産の分割前における預貯金債権の行使(民法909条の2)

 

 本コラムでは、遺産の分割前における預貯金債権の行使(民法909条の2)について説明します。

 

1、相続と預貯金債権

2、遺産分割前の預貯金の払戻し

⑴払戻可能な金額

⑵払戻しの効果

 

1、相続と預貯金債権

 相続が発生すると預貯金債権は、かつては、相続開始と同時に、共同相続人間で相続分に従って(遺産分割協議を待たずに)当然に分割され、各共同相続人が、各人の相続分に応じた預貯金債権を単独で行使できるものと考えられていました。

 しかしながら、最決平成281219日民集70巻8号2121頁は、「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」として、預貯金債権は相続開始と同時に当然に分割されるものではなく、遺産分割の対象となるとの判断を示しました。

 したがって、遺産分割協議が成立するまでは、各相続人は、相続人全員の同意がなければ預貯金債権を行使し、現金を引き出すことができないことになります。

 もっとも、そうすると、葬儀費用の工面や被相続人から扶養を受けていた相続人の生活といった点で問題が生じることがあるため、遺産分割前であっても預貯金債権の単独行使を認める規定が民法909条の2です。

 

2、遺産分割前の預貯金の払戻し

⑴払戻可能な金額

 民法909条の2は、「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」と定めています。

 各共同相続人は、預貯金債権の債権額の3分の1に各共同相続人の法定相続分を乗じた金額について、単独で引き出すことができます。預貯金債権の基準時は、相続開始時です。

なお、法務省令で定める額を限度とする旨の規定があるため、同金額が上限となります。現在の規定では、150万円とされています。

上限金額は金融機関ごとに判断されるため、同じ銀行に複数の口座がある場合であっても、上限は150万円となりますが、複数の金融機関に口座を有している場合には、その分上限金額が増えることになります。

 

⑵払戻しの効果

 前記のとおり、民法909条の2後段は、「この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」と定めており、預金の払い戻しを受けた共同相続人は、その部分について、一部分割によりこれを取得したものとみなされます。

 

 

 

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