相続・遺言

2024/09/01 相続・遺言

持戻し免除の意思表示の推定について

 

 本コラムでは、持戻し免除の意思表示が推定される場合について説明します。

 

1、特別受益と持戻し免除の意思表示

2、持戻し免除の意思表示の推定

⑴持戻し免除の意思表示が推定される場合

⑵趣旨

⑶要件

ア 当事者

イ 婚姻期間

ウ 対象となる財産

エ 贈与・遺贈

 

1、特別受益と持戻し免除の意思表示

 特別受益とは、一部の相続人が被相続人から受けていた特別の利益のことを言い、民法は、その様な相続人が存在する場合に、当該相続人が受けた特別の利益の額を考慮して当該相続人の具体的相続分を減らすという仕組みを設けています。

 一部の相続人が、被相続人から遺産の前渡しとみられる多くの財産を既に得ているにもかかわらず、これが考慮されずに法定相続分に応じて遺産の分割が行われることは、実質的に相続人間に不公平をもたらすことになる為です。

 もっとも、民法第903条第3項は、「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う」と定めており、被相続人が、相続人が、遺産分割において、特別受益を持戻す必要がない旨の意思表示をしていた場合には、持戻しが不要となります。

 持戻し免除の意思表示は、明示のものでなく黙示のものであっても足ります(※「遺贈」については遺言によって持戻し免除の意思表示をしなければならないとする見解もあります)。

 

2、持戻し免除の意思表示の推定

⑴持戻し免除の意思表示が推定される場合

 民法第904条第3項は、「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」と規定しており、①婚姻期間が20年以上の、②夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、③その居住の用に供する建物又は敷地について、④遺贈又は贈与した場合には、持戻し免除の意思表示が推定されます。

 

⑵趣旨

 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他の一方に対して居住用不動産の贈与等をする場合には、その贈与等は、通常相手方配偶者の長年の貢献に報いるとともに、相手方配偶者の老後の生活保障を厚くするとの趣旨でなされるものと考えられ、被相続人の意思としても遺産分割における配偶者の取得額を算定するに当たり、その価額を控除して遺産分割における取り分を減らす意図を有していない場合が多いものと考えられます(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019 商事法務)5758頁)。

 そのため、このような場合には、被相続人の持戻し免除の意思を推定する旨の規定が設けられました。

 

⑶要件

ア 当事者

 夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対して行ったものである必要があります。遺産分割の当事者(共同相続人)である法律婚配偶者に限られ、内縁・事実婚の配偶者は含まれません(潮見佳男編「新注釈民法(19)相続(1)〔第2版〕」(有斐閣、2023324(本山))。

イ 婚姻期間

 贈与又は遺贈がされた時点において婚姻期間が20年以上であることが求められます。

ウ 対象となる財産

 対象となる財産は、居住用建物、居住用建物の敷地のほか、配偶者居住権も含まれます。

 贈与又は遺贈がなされた時点を基準として、対象不動産が居住用である必要があります。なお、贈与又は遺贈が行われた時点で、現に居住用でない場合であっても、贈与及び遺贈の時点で近い将来居住の用に供する目的があったと認められる場合には、「居住の用に供する」という要件に該当するとの解釈ができる場合も多いものと考えられています(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019 商事法務)61頁)。

エ 遺贈又は贈与

 対象となる行為は、贈与、遺贈となります。

 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)については、明文で規定はされていませんが、適用されるものと考えられています。

 また、適用されないと考えた場合であっても、被相続人の意思は、遺産分割において、遺産分割方法の指定がされた財産(この場合は居住用不動産)については別枠として取り扱い、残余の遺産分割においてはこれを考慮しないというものであったと捉えると、特定財産承継遺言により、遺産分割方法の指定とともに、相続分の指定がなされたものと取り扱うことができ、結果として持戻しを免除した場合と同様の結果となるものと考えられています(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019 商事法務)62-63頁参照)。

 

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