2024/08/29 離婚・男女問題
養育費の支払いの終期~大学生の養育費と扶養料について~
本コラムでは、大学生の養育費や扶養料の支払いの終期について争われた裁判例を紹介します。
1、養育費の支払いの終期
2、裁判例の紹介
1、養育費の支払いの終期
養育費の支払いの終期は、子どもが自立して生活できるまでであり、成人したからといって直ちに未成熟子でなくなり、養育費の分担義務を負わなくなるものではありません。
実務上は、20歳までとするケースが多いものと考えられますが、大学卒業までとすることも珍しくはありません。
養育費の支払義務の終期は、「それぞれの事案における、諸般の事情、例えば、子の年齢、進路に対する意向及び能力、予測される子の監護の状況、両親が子に受けさせたい教育の内容、両親の経済状況、両親の学歴等の個別事情等に基づく、将来のどの時点を当該子が自立すべき時期とするかの認定、判断によって決すべきこととなる」(司法研修所編「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」60頁(法曹會、2019))とされており、このような個別事情を踏まえて、判断されるものと考えられます。
2、裁判例の紹介
⑴大学生の養育費が問題となった事案
・東京高決平成29年11月9日判タ1457号106頁
ア 事案の概要
審判により養育費が確定した後、子の一人が大学進学したことを理由に、養育費の支払い終期の延長を求めた事案です。
イ 裁判所の判断
裁判所は、前件審判時には、高校生であった本人が大学生になり、現に通学し、成年に達した後も、学納金及び生活費等を要する状態にあるという事情の変更があったということができるとして事情変更を認めたうえで、下記の事情に照らすと、相手方は、本人が大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務があると認めるべきであると判断しました。
・相手方は親として未成熟子に対して、自己と同一の水準の生活を確保する義務を負っているといえること、
・本人は成人後も大学生であって、現に大学卒業時までは自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、なお未成年者と同視できる未成熟子であること、
・相手方は本人の私立大学進学を了解していなかったと認められるが、およそ大学進学に反対していたとは認められないこと
・相手方は大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収九〇〇万円以上あること、
・相手方には本人の他に養育すべき子が三人いるとしても、そのうちの二人は未だ一四歳未満であること
ウ 解説
本事案では、大学進学に反対していたとは認められないことや、相手方の年収、学歴職業等を考慮し、大学卒業までに通常要する期間について養育費の支払いを認めています。
⑵大学生の扶養料が問題となった事案
・東京高決平成12年12月5日家月53巻5号187頁
ア 事案の概要
4年制の大学に進学し、20歳に達した後もその大学で学業を続けようとする子が、20歳に達するまではその学費・生活費の一部を出捐していたが20歳に達した段階でその出捐を打ち切った父に対し、学費・生活費について扶養を求めた事案です。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「当該子が,卒業すべき年齢時まで,その不足する学費・生活費をどのように調達すべきかについては,その不足する額,不足するに至った経緯,受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類,その金額,支給(貸与)の時期,方法等,いわゆるアルバイトによる収入の有無,見込み,その金額等,奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無,親の資力,親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情を考慮した上で,その調達の方法ひいては親からの扶養の要否を論ずるべきものであって,その子が成人に達し,かつ,健康であることの一事をもって直ちに,その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない。」として、これらの点について具体的に考慮することなく,成人に達した普通の健康体である抗告人には潜在的稼働能力が備わっていることのみを根拠に抗告人が要扶養状態にないものとした原審を取り消し、家庭裁判所に差し戻しました。
ウ 解説
この事案で、裁判所は、大学生の子の親からの扶養の要否の判断に当たっては、「不足する額,不足するに至った経緯,受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類,その金額,支給(貸与)の時期,方法等,いわゆるアルバイトによる収入の有無,見込み,その金額等,奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無,親の資力,親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情」を考慮すべきとして挙げており、参考になります。
⑶大学生及び高校生の子の扶養料が問題となった事案
・大阪高決平成2年8月7日家月43巻1号119頁
ア 事案の概要
大学生と高校生の2人の娘が母親と離婚した父親に対し扶養料の支払を求めた事案です。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「未成熟子の扶養の本質は,いわゆる生活保持義務として,扶養義務者である親が扶養権利者である子について自己のそれと同一の生活程度を保持すべき義務である」としたうえで、
「抗告人ら(扶養料請求者)の父である相手方は医師として,母は薬剤師として,それぞれ大学の医学部や薬学部を卒業して社会生活を営んでいる者であり,現に,抗告人Aも昭和61年4月に薬科大学に進学していること等,抗告人らが生育してきた家庭の経済的,教育的水準に照らせば,抗告人らが4年制大学を卒業すべき年齢時まで」相手方(父)において扶養料を負担するのが相当であるとして、4年生大学を卒業すべき年齢までの扶養料請求を認めました。
ウ 解説
本事案では、未成熟子の扶養の本質が自己のそれと同一の生活程度を保持すべき義務であることを確認したうえで、父が医師、母が薬剤師であり、それぞれ医学部や薬学部を卒業していること、子らが生育してきた家庭の経済的教育的水準に照らして、大学卒業時までの扶養料請求を認めています。