2024/08/26 離婚・男女問題
前妻との間に子がいる場合の婚姻費用の算定方法
本コラムでは、義務者に前妻との間に子がいる場合の婚姻費用の算定方法について説明します。
1、はじめに
2、算定方法
1、はじめに
婚姻費用の算定方法は、大まかに、①夫婦それぞれの総収入を認定した上で、②各所得に応じて決められている基礎収入割合を乗じて、基礎収入を算出し、③これを基に権利者世帯に割り振られる婚姻費用の額及び義務者から権利者に支払うべき婚姻費用の額を算定するといった算出方法を取ります。(詳しくは、別コラム婚姻費用の算定方法 – 虎ノ門法律経済事務所 柏支店 – 千葉県・柏市の弁護士へ法律相談 (t-leo-law-kashiwa.com)をご覧ください。)
また、実務上は、上記の算定方式を基に作成された改定標準算定表を用いて算定されることが一般的です。
しかしながら、義務者に前妻との間に子がいるような場合(扶養義務を負う場合)には、義務者は当該子どもに為の養育費を負担するため、婚姻費用の算定に当たってもこれを考慮する必要があり、算定表から直ちに導くことはできません。
本コラムでは、このような場合の婚姻費用の算定方法について説明します。
2、算定方法
⑴基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき額を生活費指数を用いて算定する方法
ア 想定するケース
X(妻)、Y(夫)、XY間の子A(10歳)、Yの前妻Zとの間の子B(16歳)というケースを想定します。Xの収入が300万円、Yの収入が1000万円、Zの収入が500万円である(いずれも給与所得)とします。
イ 算定方法
(ア)総収入の認定
総収入の認定は、Xが300万円、Yが1000万円です。
(イ)基礎収入の算定
基礎収入はXが129万円(300万円×基礎収入割合43パーセント)、Yが410万円(1000万円×基礎収入割合41パーセント)となります。
(ウ)権利者(X)世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定
①義務者Yの基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定
ⅰ 算定方法
義務者Yは前妻との間の子Bに対しても扶養義務を負っているため、権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定に当たっては、これを考慮する必要があります。
具体的には、
義務者Yの基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の額(年額)
=Yの基礎収入×(権利者Xの生活費指数+子Aの生活費指数)÷(権利者Xの生活費指数+義務者Yの生活費指数+子Aの生活費指数+子Bの按分した生活費指数)
となります。
ここで、難しい点が、子Bの按分した生活費指数の算定です。
子Bの生活費指数は、YがBに対して、どれほどの養育費の負担を負うかによって異なることから、前妻Zの基礎収入と按分して、子Bの生活費指数を算定することになります。
つまり、
子Bの按分した生活費指数
=子Bの生活費指数×義務者Yの基礎収入÷(義務者Yの基礎収入+前妻Zの基礎収入)
となります。
なお、実際には前妻の所得はわからないことも多く、そのような場合には賃金センサス等を用いて算定します。
ⅱ 具体的計算
まず、子Bの按分した生活費指数については、
85×(410万)÷(410万+215万)=55.76≒56
となります。
次いで、義務者Yの基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の額(年額)については、
410万×(100+62)÷(100+100+62+56)=208万8679円(小数点以下切り捨て)
となります。
②権利者Xの基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定
権利者Xの基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定については、
権利者Xの基礎収入×(権利者Xの生活費指数+子Aの生活費指数)÷(権利者Xの生活費指数+義務者Yの生活費指数+子Aの生活費指数)
となります。
Xは前妻の子については扶養義務を負わないことから、ここでは、①とは異なり、子Bの生活費指数の考慮を行いません。
計算すると、
129万円×(100+62)÷(100+100+62)=79万7633円(小数点以下切り捨て)
となります。
③権利者(X)世帯に割り振られるべき婚姻費用の算定
上記①208万8679円と②79万7633円の和288万6312円が権利者(X)世帯に割り振られるべき婚姻費用となります。
(エ)権利者に支払うべき婚姻費用の額の算定
権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の額288万6312円から権利者の基礎収入129万円を控除した残額が、権利者に支払うべき婚姻費用と試算されます。
本件では、288万6312円-129万円=159万6312円(年額)
月額(÷12)=13万3026円と試算されます。
⑵養育費の実額を考慮する方法
⑴は生活費指数を用いて、基礎収入から権利者世帯に割り振られるべき額を算定し、婚姻費用を算定する方法でした。
他方で、実際に支払われている養育費の額がわかっている場合には、義務者の基礎収入から養育費の額(年額)を控除したうえで、後は通常通り算定するという方法も考えられています。
上記の例で計算すると、養育費の年額が120万円(月額10万円)であるような場合には、
義務者Yの基礎収入は410万円-120万円=290万円となります。
その上で、これを用いて、権利者世帯に割り振られるべき婚姻費用の額を算定すると、
(129万円+290万円)×(62+100)÷(62+100+100)
=259万円(小数点以下切り捨て)
権利者に支払うべき婚姻費用の額は、
259万円-129万円=130万円(年額)
月額(÷12)≒10万80000円と試算されます。
なお、裁判例(名古屋高決平成28年2月19日判タ1427号116頁)においては、認知した妻ではないと女性との間の子の育児費用について、15万円との合意がされていた事案で、「(育児費用の)支払を確認できない期間もあること,上記合意の際,抗告人が,相手方に対する婚姻費用の分担額をどの程度考慮したかは不明であることから,これをそのまま抗告人の基礎収入から控除するのは相当ではない。」として、合意された15万円を控除するのではなく、上記⑴の方法で算定しており、算定方法の選択に当たって参考になります。