2024/08/21 離婚・男女問題
養育費・婚姻費用の算定における無収入である当事者の総収入額の認定について
本コラムでは、当事者の一方が或いは双方が無収入である場合に、養育費・婚姻費用の算定における総収入額がどのように認定されるかについて説明します。
1、総収入額の認定
2、無収入である場合
⑴専業主婦(夫)
⑵失業中・休職中
⑶意図的な無収入(低収入)
1、総収入額の認定
養育費及び婚姻費用の算定に当たっては、まず、当事者双方の総収入額を認定する必要があります。総収入の認定においては、給与所得者であれば、源泉徴収票、自営業者であれば、確定申告書が用いられます。課税証明書が用いられることもあります。
当事者が無収入である場合に、養育費及び婚姻費用の算定における総収入額も0円としていいのかという問題が生ずることがあり、以下ではこの点について説明します。
2、無収入である場合
⑴専業主婦(夫)
専業主婦(夫)である場合、実際に当事者が得ている収入額は0円となります。そして、実務上は、実際に得ている収入額を基準とすることから、所得を得ていないのであれば0円と認定することが原則となります。
もっとも、専業主婦であっても潜在的な稼働能力がある場合には、潜在的稼働能力によって、収入が認定される場合があります。具体的には、子がだいたい3歳から4歳以上である場合には、パートタイムであれば収入を得ることが可能であるとして、賃金センサスを参考に120万円程度の収入が認定されることがあります。
裁判例(東京高決平成30年4月20日判タ1457号85頁)においては、「長男は満5歳であるものの,長女は3歳に達したばかりの幼少であり,幼稚園にも保育園にも入園しておらず,その予定もな」かったケースで、婚姻費用の算定に当たり、潜在的な稼働能力をもとに、その収入を認定するのは相当とはいえないとして、潜在的な稼働能力による収入の認定を否定したものがあります。
なお、原審(さいたま家審平成29年12月15日)は、歯科衛生士の資格を有しており,これまでに10年以上にわたる歯科医院での勤務歴があること、長男は幼稚園に通園していること、母の監護補助を受けられる状況にあること等の事情から潜在的な稼働能力を認め、賃金センサスを参考の上、151万円割程度の稼働能力を認めていました。
⑵失業中・休職中
実務上は、実際に得ている収入額を基準とすることから、傷病手当金や失業手当を受給している場合には、これらを基準として総収入額が認定されます。
これらの手当の受給期間を経過した場合には、上記と同様、潜在的稼働能力が認められるかの問題となります。
この点については、「養育費は,当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則であり,義務者が無職であったり,低額の収入しか得ていないときは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて,義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したとしたら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し,これを養育費算定の基礎とすることが許されるというべきである。」とした裁判例(東京高決平成28年1月19日判タ1429号129頁)が参考になります。
同裁判例からすると、無職や低額の収入しか得ていないときに、潜在的稼働能力によって収入額を認定できるケースは限定的になるものと思われます。
また、同裁判例は、「主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮していないものであり,相手方との養育費分担との関係で公平に反すると評価されるものかどうか,また,仮にそのように評価されるものである場合において,抗告人の潜在的稼働能力に基づく収入はいつから,いくらと推認するのが相当であるかは,抗告人の退職理由,退職直前の収入,就職活動の具体的内容とその結果,求人状況,抗告人の職歴等の諸事情を審理した上でなければ判断できない」と述べており、潜在的稼働能力による収入額の認定が認められるのか、認められるとしていくらとすべきであるのかという点については、退職理由,退職直前の収入,就職活動の具体的内容とその結果,求人状況,抗告人の職歴等の諸事情を考慮したうえで決定すべきとされています。
⑶意図的な無収入(低収入)
意図的に収入を減額したような場合には、減額前の収入を基礎として総収入額が認定されます。自身の収入をコントロールできる経営者等のケースで問題となることがあります。
裁判例(大阪高決平成19年3月30日)としては、株式会社の過半の株式を有する経営者として、実質的に自らの報酬額を決定できる立場にあった者が、二度報酬を減額し、減額後の報酬を基礎として婚姻費用を算定すべきと主張した事案で、「婚姻費用の支払を求める本件調停の第1回期日の前後及び,本件調停が不成立となり原審判手続に移行した直後に行われていることに照らすと,相手方に対する婚姻費用分担額を低額に押さえようとの目的でされたものと推認」できるとして、減額前の報酬額を基礎として婚姻費用を算定すべきとしたものがあります。