相続・遺言

2024/08/14 相続・遺言

公正証書遺言が方式違背によって無効となる場合

 

 本コラムでは、公正証書遺言の有効性が方式違背を理由として争われた裁判例を紹介します。

 

1、公正証書遺言の方式

2、方式違背が争われた裁判例

⑴証人欠格

⑵口授

 

1、公正証書遺言の方式

 公正証書遺言は、①証人二人以上の立会いの下で(民法9691号)、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し(同2号)、③これを公証人が筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させ(同3号)、④遺言者及び証人が、筆記が正確なことを承認した後これに署名押印し(同4号)、⑤公証人が、証書が①から④の方式に従って作ったものである旨を付記し、署名押印するという方式によって作成される遺言です。

 

2、方式違背が争われた裁判例

⑴証人欠格

 上記のように、公正証書遺言は、証人二人以上の立会いの下でなされる必要がありますが、民法974条は、未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は証人になることはできないと定めています。このように、証人になることができない者が、証人となったとして、公正証書遺言の有効性が争われるケースがあります。

・最判昭和52614日家月30169

 立会証人が、すでに遺言内容の筆記が終わった段階から立ち会ったという事案で、公正証書遺言の有効性が問題となった事案です。

 裁判所は、「遺言内容の筆記が終った段階から立会ったものであり、その後公証人が右筆記内容を読み聞かせたのに対し、右遺言者はただうなずくのみであって、口授があったとはいえず、右立会証人は右遺言者の真意を十分に確認することができなかった」として、公正証書遺言は、方式に反し無効であると判断しました。

 なお、本事案では、二名の証人のうち一名は遺言の最初から立ち会っており、一名が遅れたという事案です。

 

・広島地裁呉支判平成元年8月31日家月42巻5号97

公正証書遺言の両立会証人が、①口授が始まってから公証人役場に着き、②公証人に口授しているのを,約7メートル離れたところで、十分聞取れないまま傍観者的に耳にしていただけであった事案です。

裁判所は、「民法969条1号が証人の立会を遺言公正証書作成の1要件としたのは,証人に遺言者の口授を耳で聴かせ,その後公証人による公正証書の読上げを聴かせ,この両者の比較によって証書の記載が口授のとおりであるかを確認させることによって,遺言書作成の適正を担保するためである」としたうえで、

証人は、「口授と証書の内容が一致するか否かを確認するに由なく,同法条の定める証人立会の要件を実質的に欠くといわざるをえない。」として、方式違背を理由として無効としました。

 

⑵口授

・仙台高裁秋田支決平成3年830日家月441112

 遺言者の言葉の音量はかすかであり,その口許に耳を近づけなければ聞きとれない程度であり、公証人に対する遺言内容の伝達は、推定相続人が、誰にどれだけということを言って、これでよいかと遺言者に問いかけ、遺言者が頷いたのに基づいて公証人またはその事務員が録取するという形で行われ、最後に公証人が全部の内容を読み聞かせ,これに対して遺言者が頷いたという事案です。

 裁判所は、上記のような事実からすると、遺言者が「口授」したことにはならないと判断しました。

 別の判例(最判昭和51年1月16日家月28巻7号25頁)においても、「公証人の質問に対し言語をもつて陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときには、民法九六九条二号にいう口授があつたものとはいえ」ないものとされており、このような場合には、口授があったものとは認められないものと考えられます。

 

・東京高判平成151212日金融法務事情170846

 公証人が、事前に弁護士が遺言者から聴取した内容にしたがって用意した遺言書の文案を遺言者に交付し、これを各項目ごとに読み聞かせ、その都度遺言者に真意を尋ねる形でなされた遺言でした。遺言者は、各項目ごとに都度うなずいて内容を了承し、二女の誤記については指摘して訂正を求め、読み聞かせが終了した後、公証人に「このとおりで間違いありませんね。」と尋ねられると、「そのとおりで間違いありません。よろしくお願いします。」と答えたという事案です。

 原審は、草稿の読み聞かせとそれが間違いない旨の承認をしただけでは、口授の要件を満たしたと認めることはできないとして、方式違反により遺言を無効と判断していました。

 これに対し、控訴審は、「(公証人は)、嘱託に基づいて、あらかじめ弁護士が遺言者から聴取した遺言内容に従って準備した本件遺言書文案を遺言者に交付し、これを各項目ごとに読み聞かせて、その内容が遺言者の真意に合致することの確認を得、条項中の二女の氏名の誤記について遺言者からその場で訂正の申入れを受けることにより、遺言者から本件公正証書遺言の趣旨の口授を受け」たとして、上記事実関係の下で口授を認め、遺言を有効と判断しました。

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