2024/08/10 相続・遺言
相続欠格に関する裁判例の紹介
本コラムでは、相続人の欠格が争われた裁判例について紹介します。
1、相続欠格とは
2、裁判例の紹介
1、相続欠格とは
相続人となる一般的資格を有する者であっても、一定の事由が存在する場合には相続人となる資格が失われることがあり、これを相続欠格といいます。
民法は、欠格事由として、以下の五つの事由を定めています。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続欠格事由に該当した場合、その者は相続資格を失います。欠格事由が相続開始前に発生したものであるときは、その時点から、欠格事由が相続開始後に発生したものであるときは、相続開始時点から相続資格を失うこととなります。
2、裁判例の紹介
⑴遺言の偽造が問題となった事案
・東京地判平成9年2月26日判時1628号54頁
遺産の一部分割合意に調印しようとする段階になって、被告が突然自分に有利な内容の本件第二遺言書を発見したと言い出したこと、被告が現に本件第一遺言書の二枚目を変造していること、本件第二遺言書の筆跡が被告のものに酷似していること、本件第二遺言書発見の経緯についての主張をはじめとして被告の主張は多くの矛盾や不合理な変遷ばかりであること、といった事情から、被告が遺言を偽造したとして、相続欠格が主張された事案です。
裁判所は、被告が第二遺言書を発見したという経緯が極めて不自然であること、不合理な被告の言動や事象を伴っており、このことは被告自身が右遺言書を偽造したとの事実を無理なく推認させるものとしました。
その上で、被告は民法八九一条五号に該当する者として、相続人となることはできず、相続財産につき何ら相続権を有しないと判断しました。
遺言の偽造を理由に相続欠格を認めた裁判例として参考になります。
⑵遺言の隠匿が問題となった事案
ア 自筆証書遺言
・東京高判昭和45年3月17日家月22巻10号81頁
相続人の一人が、被相続人の死亡後直ちに遺言書(自筆証書遺言)を公表すると、他の相続人から遺留分減殺請求権の行使を受け、本件遺言書のとおり被相続人の遺産全部を自分独りで取得できなくなることを恐れ、被相続人の遺産全部を一人で承継しようとして、他の相続人らの遺産分割請求を却け、相続税納付の必要に迫られて本件遺言書の検認請求をなすまでこれを公表せず、本件遺言書を隠匿していたという事案です。
裁判所は、上記事実を認定したうえで、相続に関する被相続人の遺言書を隠匿した者として、民法第891条5号に該当するとして、相続欠格を認めました。
イ 公正証書遺言
・最判平成6年12月16日判タ870号105頁
遺言公正証書の正本の保管者がこれを公表しなかった行為が、遺言の隠匿に当たると主張された事案です。
裁判所は、遺産分割協議が成立するまで一部の相続人に対して遺言書の存在と内容を告げなかったという事実は認定しながらも、一部の相続人は事前に相談を受けて被相続人が公正証書によって遺言したことを知っていたこと、一部の相続人の実家の当主は証人として遺言書の作成に立ち会ったこと、遺言執行者の指定がされていたこと、遺産分割協議の成立前に一部の相続人に対し、右遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げたといった事情から、「右事実関係の下において、被上告人の行為は遺言書の発見を妨げるものということができず、民法八九一条五号の遺言日の隠匿に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」として相続欠格を認めませんでした。