相続・遺言

2024/08/08 相続・遺言

相続人の廃除について

 

 本コラムでは、相続人の廃除について簡単に説明します。

 

1、相続人の廃除とは

2、相続人の廃除の方法

3、廃除事由

4、裁判例

 

1、相続人の廃除とは

 相続人の廃除とは、一定の事由がある場合に、被相続人の意思により遺留分を有する推定相続人の相続資格を失わせる制度です。相続人の廃除がなされると、推定相続人は、相続資格を喪失することになります。

 その結果として、相続資格を喪失した者は、遺産分割協議の当事者となることも、遺留分侵害額請求をすることもできなくなります。

 なお、廃除の対象者は「遺留分を有する推定相続人」とされており、遺留分を有しない相続人(兄弟姉妹)については、廃除の対象者とはなりません。これは、遺留分を有しない相続人については、単に遺言で財産を渡さないようにすれば足りるためです。

 相続人廃除の制度の根拠は、大きく分けて、廃除事由に該当する行為をしたことにより、同人と被相続人との間の相続的協同関係というべき倫理的・経済的結合関係の破壊にあるという考え方と、被相続人との間の人的信頼関係を破壊したことへの制裁と捉える考え方があります。

 

2、相続人の廃除の方法

 相続人廃除の方法としては、被相続人が、①生前に推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求して行う方法と、②被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示する方法があります。なお、②の場合には、遺言執行者が、遺言の効力が生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求する必要があります(民法893条)。

 

3、廃除事由

 廃除事由は、「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法892条)です。

 上記の虐待、重大な侮辱、著しい非行については、被相続人との間の人的信頼関係を破壊する程度の重大なものであることが求められます。「民法892条所定の廃除事由は,被相続人の主観的判断では足りず,客観的かつ社会通念に照らし,推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべきである」(名古屋高金沢支決平成2年516日家月421137頁)とした裁判例が参考になります。

 また、虐待や侮辱等の対象について、条文上は被相続人に対するものとされていますが、「推定相続人の非行は、単に被相続人に対するものに限定されるわけではなく、他人に対する非行であっても、それが被相続人及び他の共同相続人らに対し直接間接に財産的損害や精神的苦痛を与え、このために相続的協同関係が破壊される程度のものであれば、廃除原因になりうるものと解するのが相当」として、他人に対する非行についても考慮し、廃除を認めた裁判例(広島高岡山支決昭和5382日家月31756頁)もあります。もっとも、被相続人以外の者に対する行為でも廃除の事由となるかについては、争いがあり、被相続人に直接向けられていない非行については、裁判所は廃除を肯定することに慎重である(松原正明「民法892条の「著しい非行」に該当するものとして、推定相続人の廃除が認められた事例」別冊判タ29157頁(2010))との見解も示されています。

 

4、近時の裁判例の紹介

⑴実子の廃除が問題となった事案

・大阪高決令和元年821日判時244350

 被相続人の長男の相続人廃除(遺言による廃除)が問題となった事案です。

 裁判所は、長男が被相続人に対し、少なくとも3回にわたって暴行に及んだこと、1回は鼻から出血するという傷害を負い、1回は全治約3週間を要する両側肋骨骨折,左外傷性気胸の傷害を負い入院治療を受けたことといった事情から、社会通念上厳しい非難に当たるとして、「(長男の)被相続人に対する一連の暴行は,民法892条所定の「虐待」または「著しい非行」に当た」るとして、廃除することが相当であると判断しました。

 

⑵夫の廃除が問題となった事案

・大阪高決令和2227日判タ1485号115頁

 被相続人の夫の相続人廃除(遺言による廃除)が問題となった事案です。

 被相続人は、遺言において、抗告人から精神的,経済的虐待を受けたと主張し,具体的理由として,①離婚請求,②不当訴訟の提起,③刑事告訴,④取締役の不当解任,⑤婚姻費用の不払い及び⑥被相続人の放置を主張していました。

 裁判所は、まず判断枠組みとして、「推定相続人の廃除は,被相続人の意思によって遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する制度であるから,廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱,その他の著しい非行は,被相続人との人的信頼関係を破壊し,推定相続人の遺留分を否定することが正当であると評価できる程度に重大なものでなければならず,夫婦関係にある推定相続人の場合には,離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要であると解するべきである。」と述べました。

 その上で、婚姻を継続し難い重大な事由はなく、遺言作成の後に言い渡された離婚訴訟の判決において,婚姻を継続し難い重大な事由が認められないと判断されたこと、被相続人の遺産は、夫とともに営んでいた事業を通じて形成されたものであること、被相続人と夫との不和は,約44年間に及ぶ婚姻期間のうちの5年余りの間に生じたものにすぎないことといった事情を考慮し、廃除事由には該当しないと判断しました。

Contactお問い合わせ

お電話でのお問い合わせ

04-7197-1166

〈受付時間〉月〜土曜 9:00〜18:00

メールでのお問い合わせ 24時間受付中

© 虎ノ門法律経済事務所 柏支店 – 千葉県・柏市の弁護士へ法律相談