2024/08/07 相続・遺言
相続人の欠格事由
本コラムでは、相続人の欠格事由について簡単に説明します。
1、相続欠格とは
2、欠格事由
3、相続欠格の効果
1、相続欠格とは
相続人となる一般的資格を有する者であっても、一定の事由が存在する場合には相続人となる資格が失われることがあり、これを相続欠格といいます。
相続欠格制度の正当化根拠としては、大きく分けて、事由に該当する行為をしたことにより、同人と被相続人との間の相続的協同関係というべき倫理的・経済的結合関係の破壊にあるという考え方と、被相続人と被相続人や推定相続人への生命侵害に関する非行、被相続人の遺言行為への違法な干渉に対する非行への制裁と捉える考え方があります。
2、欠格事由
⑴1号事由
民法891条1号は、「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた」ことを相続欠格事由として定めています。
ア 「故意」
「故意」が要件となりますので、過失によって死亡させた場合には、本号に当たりません。また、「故意」については、殺人に対する故意に加えて、殺害によって、相続法上有利になろうとする故意を必要とする見解もあります。
イ 「刑に処せられた」
刑に処せられたことが求められます。執行猶予付き判決については、猶予期間が終了することにより、刑の言渡しは効力を失うため、この要件を満たさないものと考えられます。
⑵2号事由
民法891条2号本文は、「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった」ことを相続欠格事由として定めています。
もっとも、既に捜査機関による捜査権限の発動や公訴権の発動があれば、相続欠格事由とはならないものと考えられています。
なお、同号但し書きは、「ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない」としており、この場合には、欠格事由には当たりません。
⑶3号事由
民法891条3号は、「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた」ことを相続欠格事由として定めています。
ア 相続に関する遺言
相続に関する遺言とは、遺贈や、特定財産承継遺言、遺産分割方法の指定といったもののほか、遺言による認知も含まれます。
イ 故意
本号の故意については、①欠格事由に該当する行為をすることについての故意に加えて、②同行為により、相続法上有利になろうとする故意も必要であると考えられています。
⑷4号事由
民法891条4号は、「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた」ことを相続欠格事由として定めています。
「相続に関する遺言」及び故意については、上述のとおりです。
⑸5号事由
民法891条5号は、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した」ことを相続欠格事由として定めています。
ア 偽造、変造、破棄又は隠匿
被相続人名義での遺言作成(偽造)や、被相続人の作成した遺言の加除訂正(変造)、遺言の破棄(破棄)、遺言の発見を妨げるような行為(隠匿)といったものが挙げられます。
イ 故意
偽造等の行為に対する故意のほかに、相続に関して不当な利益を得る目的であることも求められます。判例(最判平成9年1月28日民集51巻1号184頁)においても、「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解する」とされています。
また、その理由としては、「同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにある」(最判昭和56年4月3日民集35巻3号431頁)ことが示されています。
3、相続欠格の効果
相続欠格事由に該当した場合、当然に相続資格を失います。欠格事由が相続開始前に発生したものであるときは、その時点から、欠格事由が相続開始後に発生したものであるときは、相続開始時点から相続資格を失うこととなります。