相続・遺言

2024/08/06 相続・遺言

配偶者短期居住権の概要

 

  本コラムでは、配偶者短期居住権について簡単に説明します。

 

1、配偶者短期居住権とは

2、配偶者短期居住権の内容

3、配偶者短期居住権の成立要件

4、配偶者短期居住権の存続期間

5、配偶者短期居住権の消滅

 

1、配偶者短期居住権とは

 配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、一定の期間、居住建物を無償で使用することができる権利です(民法1037条1項本文)。

 相続開始後に、配偶者が居住していた建物から直ちに退去を迫られることがないように、短期間における配偶者の居住利益の保護という点から相続法改正によって新設された規定です。

 被相続人の意思にかかわらず、後に説明する成立要件を満たせば認められるものになります。

 

2、配偶者短期居住権の内容

⑴ 配偶者短期居住権の概要

 前述のとおり、配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、一定の期間、居住建物を無償で使用することができる権利です。相続や遺贈によって、当該居住建物の所有権を取得した者であっても、配偶者短期居住権が認められる一定の期間については、配偶者を退去させることはできません。

 配偶者短期居住権を有する配偶者は、無償使用することができるため、対価を支払う必要はありません。

 

⑵ 配偶者短期居住権の内容

ア 収益目的での使用

 配偶者短期居住権は、あくまでも、一定の期間、居住建物を無償で使用する権利であり、配偶者が第三者に賃貸する等、収益目的で用いることはできません。

イ 善管注意義務・用法遵守義務

 建物の使用について、配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない(民法10381項)とされ、用法遵守義務及び善管注意義務を負います。

ウ 無断増改築

 増改築について、明文の規定はありませんが、前述のとおり、配偶者は用法遵守義務を負っており、居住建物を増改築することは従前の用法を変更するものであることから、無断での増改築はできないものと考えられています(堂薗 幹一郎・野口 宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019、商事法務)48頁)。

エ 修繕

 「配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。」(民法10331号)とされており、短期配偶者居住権を有する配偶者は、使用に必要な修繕を行うことができます(民法1041条)。

 この場合には、配偶者は、居住建物の所有者が既に知っている場合を除き、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(民法10333項、1041条)。

オ 第三者の使用

 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることもできません(民法10382項)。

 もっとも、「配偶者がその家族や家事使用人を居住建物に住まわせて使用させるために、居住建物の所有者の承諾を得る必要はない」(堂薗 幹一郎・野口 宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019、商事法務)24頁、48頁)と考えられています。

カ 譲渡

 配偶者短期居住権は、居住をする権利であり、これを譲渡することはできません(民法10322項、1041条)。

 

3、配偶者短期居住権の成立要件

 民法10371項本文は、「配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に」配偶者短期居住権が認められるものと規定しており、配偶者短期居住権の取得には、①配偶者であること、②被相続人の財産に属した建物であること、③相続開始の時に無償で居住していたことという要件を満たす必要があります。

また、「ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない」(民法10371項但し書き)とされていることから、⑷配偶者が配偶者居住権を取得していないこと、⑸相続人欠格事由に該当していないこと及び廃除によって相続権を失っていないことも求められます。

⑴配偶者

 ここにいう「配偶者」とは、法律婚配偶者に限定され、内縁関係にある者や事実婚関係のある者については含まれないものと考えられています。

 

⑵被相続人の財産に属した建物であること

 相続開始の時点で、配偶者居住権の目的物となる居住建物を被相続人が所有していたことが求められます。なお、ここにいう所有には、被相続人が共有持分を有していた場合も含まれるものと考えられています。

 

⑶相続開始の時に無償で居住していたこと

 配偶者短期居住権については、相続開始の時に配偶者が「無償で」居住していたことが求められます。もっとも、被相続人と同居していたということは必要ではありません。

 

⑷配偶者が、配偶者居住権を取得していないこと

 配偶者居住権は、配偶者短期居住権よりも強い権原であることから、配偶者が、配偶者居住権を取得した場合には、配偶者に配偶者短期居住権を認める必要はないものと考えられるため、配偶者居住権を取得した場合には、配偶者短期居住権は認められません。

 

⑸相続人欠格事由に該当していないこと及び廃除によって相続権を失っていないこと

 相続人欠格事由に該当する者や、廃除によって相続権を失った者については、配偶者短期居住権は認められません。

 

4、配偶者短期居住権の存続期間

 配偶者短期居住権の存続期間は、①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合(民法103711号)と②①以外の場合(民法103712号)で異なります。

 

⑴居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

 この場合には、()遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は()相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日までが存続期間となります。

 したがって、配偶者短期居住権を取得した配偶者は、相続開始の時から最低6カ月は居住を継続することができます。

 

⑵⑴以外の場合

 この場合の例としては、被相続人が配偶者以外の者に居住建物を遺贈或いは相続させたような場合が挙げられます。

 この場合には、居住建物取得者が、配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6カ月が存続期間となります(民法10373項、103712号)。

 

5、配偶者短期居住権の消滅

⑴存続期間の満了

 上述したとおり、存続期間の満了により、配偶者短期居住権は消滅します。

 

⑵使用方法の違反

 配偶者は、居住建物の使用につき、用法遵守義務及び善管注意義務を負っており(民法10381項)、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない(民法10382項)とされていますが、これに違反した場合には、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができます(民法10383項)。

 

⑶配偶者による配偶者居住権の取得

 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅します(民法1039条)。これは上述のとおり、配偶者が、配偶者居住権を取得した場合には、配偶者に配偶者短期居住権を認める必要はないものと考えられるためです。

 

⑷配偶者の死亡

 配偶者が死亡した場合には、配偶者短期居住権は消滅します(民法1041条、民法5973項)。

 

⑸居住建物の全部滅失

 居住建物が全部滅失その他の事由により、使用することができなくなった場合には、配偶者短期居住権は消滅します(民法1041条、民法616条の2)。

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