2024/08/05 相続・遺言
遺言の撤回
本コラムでは、遺言の撤回について簡単に説明します。
1、遺言の撤回
⑴遺言の撤回の自由
⑵撤回の要式
⑶撤回された遺言の効力
⑷撤回権の放棄の禁止
2、遺言の撤回の擬制
⑴抵触遺言
⑵抵触行為
⑶遺言書又は遺贈の目的物の破棄
1、遺言の撤回
⑴遺言の撤回の自由
民法1022条は、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定しており、遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、遺言を撤回する自由を有することが定められています。撤回の理由は限定されていません。
また、遺言の一部のみを撤回することもできます。
遺言は、遺言者の最終意思が尊重されるべきであることから、遺言者はこのような撤回の自由を有します。
⑵撤回の要式
遺言の撤回は、遺言の方式に従って行われなければなりません。
撤回されるべき遺言について、厳格な方式が求められていること、撤回の意思を明確化し、紛争を避けることといった理由から、遺言の撤回についてもこのような方式が求められています。
なお、撤回される遺言と遺言の撤回が同じ方式であることは求められていません。公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回することも可能であり、逆も同様です。
⑶撤回された遺言の効力
撤回された遺言は、「その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。」(民法1025条)とされており、撤回の行為が撤回され或いは取り消された場合であっても、効力を回復しません。
もっとも、錯誤や詐欺、強迫を理由として取り消した場合には、効力を回復します。
⑷撤回権の放棄の禁止
「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。」(民法1026条)とされており、遺言を撤回する権利を放棄することはできません。
遺言者が、受遺者や相続人との間で、遺言を撤回しない旨の合意をしていた場合であっても、そのような合意は効力を有さず、遺言者は撤回をすることができます。
2、遺言の撤回の擬制
⑴抵触遺言
「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」(民法1023条1項)と定められており、前の遺言が後の遺言と抵触する場合には、前の遺言は、その抵触する部分については、撤回したものとみなされます。あくまでも抵触する部分について撤回したものとみなされるものであり、抵触していない部分については、効力が維持されます。
ここにいう「抵触」とは、「後の遺言を実現しようとするときは前の遺言の執行が不能となる程度に明白に内容が矛盾することをいう」(松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール相続(第2版)』275頁〔久保野恵美子〕(日本評論社、2023))とされています。
判例(最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁)においては、抵触とは、「単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合のみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」ものとされています。
抵触の例としては、Aという不動産を長男に遺贈する内容の遺言をした後で、A不動産を長女に遺贈する内容の遺言をしたような場合が挙げられます。
⑵抵触行為
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合についても、前の遺言は抵触する部分については、撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
例としては、Aという不動産を長男に遺贈する内容の遺言をした後で、A不動産を長女に贈与した場合等が挙げられます。
抵触する行為とは、「前の遺言を失効させなければ後の行為が有効となり得ない程度に内容が両立しないことをいう。」(松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール相続(第2版)』276頁〔久保野恵美子〕(日本評論社、2023))とされています。
なお、ここにいうその他の法律行為には、認知や離婚といった身分行為についても含まれるものと考えられています。
判例(最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁)においても、遺言者が、遺言者夫婦を終生扶養することを前提に養子縁組をし、その所有する不動産の大半を養子らに遺贈する旨の遺言をしたものの、養子に対する不信の念を深くして、養子らとの間で協議離縁をしたという事案で、「右協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、したがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触する」と判断したものがあります。
⑶遺言書又は遺贈の目的物の破棄
「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。」(民法1024条)と規定されており、遺言者が故意に遺言書を破棄したとき、遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときには、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。
遺言書の「破棄」とは、物理的な破棄だけではなく、文面を塗りつぶす、署名を抹消するといった行為も含まれます。