相続・遺言

2024/08/03 相続・遺言

死亡危急時遺言の概要

 

 本コラムでは、死亡危急時遺言について、その概要を説明します。

 

1、死亡危急時遺言

⑴死亡危急時遺言の要件

⑵口がきけない者、耳が聞こえない者について

⑶家庭裁判所の確認

2、特別の方式による遺言の効力

 

1、死亡危急時遺言

⑴ 死亡危急時遺言の要件

 民法976条1項は、「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。」と定めており、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫っている者には、特別の方式による遺言が認められています。

 死亡危急時遺言という言い方をしますが、これは以下のような要件の下に認められます。

ア 死亡の危急に迫った者による遺言

 遺言者が、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者であることが求められます。

イ 証人三人以上の立会い

 死亡危急時遺言では、証人三人以上の立会いが必要です。公正証書遺言では、証人二人以上の立会いですが、死亡危急時遺言では、これより多い三人以上の証人が求められています。

ウ 証人の一人に対する遺言の趣旨の口授

 遺言者は、証人の一人に対して遺言の趣旨を口授する必要があります。

エ 口授を受けた者による筆記、読み聞かせ、閲覧

 遺言の趣旨の口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させる必要があります。自筆証書遺言とは異なり、遺言者が自書する必要はありません。

 なお、ここでの「口授」については、弁護士が作成した遺言の原案を証人の一人(医師)が読み上げ、遺言者が証人の読み上げる内容にその都度うなずきながら「はい。」と返答し、証人からのこれで遺言書を作るがよいかという問いにも、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と回答したという事案で、(遺言者は)「口頭で草案内容と同趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣旨を口授したものというべきであ」るとして、「口授」を認めた判例(最判平成11年9月14日判例タイムズ1017号111頁)があります。

オ 各証人による承認、署名、押印

 各証人は、口授を受けた証人による筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、押印しなければなりません。

 

⑵ 口がきけない者、耳が聞こえない者について

 口がきけない者が死亡危急時遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、口授に代えなければならない(民法9762項)とされ、遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、読み聞かせに代えることができる(民法9763項)とされています。

 

⑶ 家庭裁判所の確認

 死亡危急時遺言は、「遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。」(民法976条4項)とされており、遺言の日から20日以内に、証人の一人又は利害関係人が家庭裁判所に請求して確認を得なければ、効力を生じません。

 また、家庭裁判所の確認については、「遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」(民法976条5項)と規定されています。

この規定は、「死が迫っている危急時であるところから、遺言の成立に厳格な方式を要求することが期待できない場合において、遺言の方式を緩和することによって遺言者の真意がゆがめられ、あるいは遺言者の真意に基づかない遺言が作出される危険性を除去するため、家庭裁判所に対し、当該遺言が遺言者の真意に出たものであることを確認させることとし」たものであるとされています(東京高判平成9年11月27日家月50巻5号69頁)。

 なお、ここでの真意に出たものであるとの心証の程度について、同裁判例では、「いわゆる確信の程度に及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度の緩和された心証で足りる」と判断されました。

 

2、特別の方式による遺言の効力

 死亡危急時遺言については、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六ヶ月間生存するときは、その効力を生じません(民法983条)。

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