2024/07/23 相続・遺言
【財産管理型】寄与分の主張が認められる場合について
1、寄与分とは
2、財産管理型とは
3、要件
⑴特別な貢献
⑵無償性
⑶継続性
⑷財産管理の必要性
⑸財産の維持又は増加との因果関係
4、裏付け資料
5、裁判例
6、おわりに
1、寄与分とは
民法904条の2第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの相続財産とみなし、 第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」としています。
この規定により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいる場合には、相続財産から当該寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産として算定することになります。また、当該寄与をした者の相続分は、算定された相続分に寄与分を加えた額となります。
上記の条文にいう「特別の寄与」とは、当該身分関係や親族関係において通常期待される程度を超える貢献をいいます。夫婦間での協力扶助義務や、親族間での扶養義務の範囲内の行為は、ここにいう特別の寄与とは認められません。
本コラムでは、「特別の寄与」のうち、財産管理型で寄与分の主張が認められる場合について、説明します。
2、財産管理型とは
被相続人の財産を管理することにより、財産の維持或いは形成に寄与したことによって、特別の寄与が認められる類型です。
3、要件
⑴特別な貢献
被相続人との身分関係(夫婦関係や親族関係)に基づいて通常期待される程度を超える貢献であることが必要となります。
通常期待される程度の貢献である場合には、認められません。
⑵無償性
無報酬又はこれに近いものであることが求められます。報酬を受領していたとしても、財産管理にかかるコストや通常生ずるであろう報酬額等に比して著しく低額であるような場合には、認められることがあります。裁判例としては、駐車場の管理等を行っていたとして、寄与分を主張した事案で、月額5万円を報酬として取得していたことが考慮されて、寄与分が認められなかったケースがあります。
⑶継続性
財産管理が、相当期間継続して行われていることが求められます。一般に、3カ月程度では認められないものと考えられています。
⑷財産管理の必要性
被相続人の財産を管理する必要があったことが前提となります。必要がないにもかかわらず、財産を管理したとしても、認められません。
⑸財産の維持又は増加との因果関係
財産管理の結果として財産が維持或いは形成されたという因果関係が必要です。
4、裏付け資料
財産管理に要したコストや負担に係る資料、及びそれを外注した場合に、実際に生じたであろう費用を裏付ける資料といったものが挙げられます。
5、裁判例
・長崎家裁諫早支審昭和62年9月1日家月40巻8号77頁
ア 事案の概要
以下のような行為を理由に寄与分の主張がされた事案です。
・被相続人の自宅を改造し,母屋を間貸し,小屋を自用できるようにした。
・本家建物の老朽化にともない建物を解体更地とするため借家人の立退き交渉や建物の解体・滅失登記手続をなした。
・被相続人の売却依頼に基づき,該土地の買手を探し、売買契約を締結した。
・売買の際、公簿面積より大きい実測面積を確保し、売買面積を65.72㎡増加させた。
・売却代金のうち2000万円を信託預金にし,また余剰金は預金・定期預金にするなどして管理し,流動資産の減少防止,有利な運用に努めた。
イ 裁判所の判断
裁判所は、土地売却について、「土地売却にあたっての寄与の主張については,土地の実測面積が公簿面積より広かつたことは,土地自体の有していた経済的価値が顕現したものにすぎ」ないとして、このことを理由とする寄与分を認めませんでした。
一方で、土地売却に当たっての寄与については、「土地売却にあたり借家人の立退交渉,家屋の取壊し,滅失登記手続,売買契約の締結等に努力したとの事実は認められるので,売却価格の増加に対する寄与はあつたものとみることができる。そして,その程度は,不動産仲介人の手数料基準をも考慮し,300万円と認めるのが相当である。」として、寄与分を認めました。
・大阪家審平成19年2月26日家月59巻8号47頁
ア 事案の概要
申立人の一人が、税金対策として被相続人に助言の上、被相続人のA株式売却し、その売却益を原資に新たな株式や投資信託による資金運用を行って合計2941万8128円の売却益を上げ、配当金や分配金(以下「分配金等」という。)合計1105万2822円と併せて4047万0950円の利益を実現ししたとして、A株式を保有し続けたとすれば得られたであろう配当金を控除した差額である約3500万円が申立人Aの寄与分であると主張した事案です。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「株式,投資信託による資産運用には利益の可能性とともに,常に損失のリスクを伴う。しかるに,一部の相続人が被相続人の資産を運用した場合,その損失によるリスクは負担せずに,たまたま利益の生じた場合には寄与と主張することは,いわば自己に都合の良い面だけをつまみ食い的に主張するものであり,そのような利益に寄与分を認めることが相続人間の衡平に資するとは,一般的にはいいがたい。」としたうえで、個別事情を考慮したうえで、申立人の寄与分を認めませんでした。
6、おわりに
以上、財産管理型の類型で寄与分が認められる場合について、簡単に説明しましたが、寄与分の主張に当たっては、個別事情を踏まえて適切な主張立証を行う必要があります。上記の裁判例もあくまで事例判断に過ぎず、個別事情を踏まえて検討する必要があります。