相続・遺言

2024/07/20 相続・遺言

【家業従事型】寄与分の主張が認められる場合について

 

1、寄与分とは

2、家業従事型とは

3、要件

 ⑴特別な貢献

 ⑵無償性

 ⑶継続性

 ⑷専従性

 ⑸財産の維持又は増加との因果関係

4、裏付け資料

5、裁判例

6、おわりに

 

 

1、寄与分とは

  民法904条の2第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの相続財産とみなし、 第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」としています。

 この規定により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいる場合には、相続財産から当該寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産として算定することになります。また、当該寄与をした者の相続分は、算定された相続分に寄与分を加えた額となります。

 上記の条文にいう「特別の寄与」とは、当該身分関係や親族関係において通常期待される程度を超える貢献をいいます。夫婦間での協力扶助義務や、親族間での扶養義務の範囲内の行為は、ここにいう特別の寄与とは認められません。

 本コラムでは、「特別の寄与」のうち、家業従事型で寄与分の主張が認められる場合について、説明します。

 

2、家業従事型とは

 被相続人の家業である農業や、経営するその他自営業に従事した場合に「特別の寄与」が認められる類型です。

 なお、被相続人が経営する法人への労務の提供は、当該法人への貢献とされ、被相続人への貢献ではないため、原則として寄与分の主張は認められません。

 

3、要件

⑴特別な貢献

 被相続人との身分関係(夫婦関係や親族関係)に基づいて通常期待される程度を超える貢献であることが必要となります。

⑵無償性

 寄与行為が無償であることが求められます。

 もっとも、完全な無償である必要はなく、一般的な労働の対価として著しく低額であるような場合には、この要件を満たします。

 他方で、家賃や食費を被相続人が支出していたような場合には全体として対価を受領していたものと捉えられ、寄与分が認められないこともあります。

⑶継続性

 当該寄与行為の提供(労務の提供)が一定期間継続されていることが求められます。

 明確な定めがあるものではなく、個別事情によりますが、少なくとも3年程度の期間の継続が求められるものと考えられています。

⑷専従性

 労務の提供が片手間によるものではないことが求められます。

 厳密に専業というところまでが求められるものではなく、片手間ではないという程度の専従性で足りるものと考えられています。

 週に1回程度手伝っていたというのみでは、認められることは難しいものと考えられます。

⑸財産の維持又は増加との因果関係

 労務提供の結果、被相続人の財産を維持又は増加させていることが求められます。

 

4、裏付け資料          

 確定申告書類や、給与明細書、給与台帳等の資料が裏付け資料として挙げられます。

 

5、裁判例の紹介

・大阪高決平成27年10月6日判タ1430号124頁

ア 事案の概要

・被相続人は,みかん農家であり、被相続人が農業を営んでいた土地の総面積は約65アールであった。

・長男は、昭和55年ころ以降,休日の昼間には可能なかぎり農作業を手伝い,繁忙期には休暇を取って農作業を手伝っていた。(基本的な勤務サイクルは、12時間の勤務→24時間の休日→12時間の勤務→24時間の休日の繰り返し)

・長男は、就職後も実家で被相続人と生活し,結婚後も実家と渡り廊下で繋がった建物で妻と生活した。

・長男は勤務先を退職し,余裕が出来た後は,より積極的に農作業に従事した。

 

イ 裁判所の判断

 裁判所は、上記の事情を考慮したうえで、被相続人がみかん畑を維持することができたのは、長男が農業に従事したからであると推認できるとしました。また、耕作放棄によりみかん畑が荒れた場合には取引価格も事実上低下するおそれがあるといえることからみかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与があるとして、特別の寄与を認めました。

 具体的な寄与分としては、みかん畑の相続開始時の評価額の30パーセントとしました。

 

・東京家審昭和61年3月24日家月38巻11号110頁

ア 事案の概要

・被相続人は家業として左官業を営んでいた。

・二人の子は、一時期被相続人の家業である左官業に従事した。

・従事期間は、一人は、約13年間から14年間であり、もう一人は、約14年間であった。

・それぞれ、給料のような形で労働の対価を得てはいなかったが、生活費を負担してもらい、小遣い銭程度はもらっていた

イ 裁判所の判断

 裁判所は、被相続人に対する貢献の態様、期間等に照らすと、遺産の維持への寄与があったものと評価すべきとして、それぞれ遺産の10パーセントの寄与分を認めました。

 

6、おわりに

 家業従事型の類型で寄与分が認められるかの判断に当たっては、労務提供の実態や対価といった個別事情を検討する必要があります。また、寄与分が認められる場合の評価額についても、別途主張を検討する必要があります(上記裁判例は、遺産の〇パーセントという形で認定していますが、労務対価額を認定し、作業日数を乗じるような方法で算定する方法を認めた裁判例もあります)。

 そのため、寄与分の主張を検討されている方、或いは寄与分の主張をされた方は一度弁護士に相談されることをお勧めします。

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