離婚・男女問題

2024/07/19 離婚・男女問題

不貞慰謝料と同性間の不倫

 

 本コラムでは、同性間の「不倫」であっても不貞慰謝料が認められるかについて説明します。

 

1、はじめに

2、裁判例の紹介

3、おわりに

 

1、はじめに

 配偶者のある者が、配偶者以外の者と性的関係を結んだ場合、民法上の不法行為として、慰謝料の請求が認められる場合があります。もっとも、性的関係を結んだ相手方が、同性であった場合(男性である夫が、男性と性的関係を結んだような場合)にも慰謝料の請求が認められるかについては、これを否定する見解もありました。

 以下では、同性間の「不倫」について、慰謝料が問題となった裁判例を紹介します。

 

2、裁判例の紹介

⑴岐阜地判平成29 915

ア 概要

 原告(夫)が原告の妻と性的関係にあったとして被告(女性)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案です。

イ 不法行為該当性について

 原告が不貞行為に当たると主張したのに対し、被告は、「不貞行為・肉体関係は男女間でのみ成立し,同性間においては成立しない。」と主張しました。

 裁判所は、「同性間の肉体関係が不貞行為に該当するかはともかく」としつつ、「婚姻関係における平穏を害し,婚姻関係を破たんさせる原因となる行為であることは明らかであるから,同性の者であっても既婚者であることを知りながら肉体関係を有することは,社会的相当性を逸脱した違法な行為であって不法行為と評価すべき」であるとして、「不貞行為」に当たるか否かは別として、不法行為を構成するものと判断しました。

ウ 慰謝料の額について

 原告が不倫行為を知って、婚姻関係が実質的に破綻に陥ったこと等が考慮され、精神的苦痛に対する慰謝料としては、100万円が認められました。

 

⑵東京地判令和3年2月16日

ア 概要

  原告(夫)が原告の妻と性的関係にあったとして被告(女性)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案です。

イ 不法行為該当性について

 裁判所は、「不貞行為」について「不貞行為とは,端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるが,これに限らず,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり,必ずしも,性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず,夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為が存在すれば,これに該当する」と述べたうえで、

 同性間での行為について、「同性同士の間で性行為あるいはその類似行為が行われた結果として,既存の夫婦共同生活が離婚の危機にさらされたり,離婚に至らないまでも形骸化するなど,婚姻共同生活の平穏が害される事態もまた想定される」としました。

 そして、本件での同性間での行為は、原告(夫)と妻の婚姻共同生活の平穏を害しかねない性行為類似行為であるとして,不貞行為に該当すると判断しました。

ウ 慰謝料の額について

 慰謝料の額については、離婚に至っていないこと、同性間の性行為であること、原告も被告が妻と親しく付き合うこと自体は許容していたこと等の事情を総合的に考慮して、精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と判断しました。

 

⑶横浜地裁小田原支判令和4年4月26日

ア 概要

 原告(夫)が原告の妻と性的関係にあったとして被告(女性)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案です。原告と妻はその後離婚しています。

イ 不法行為該当性について

 原告は、「同性間において行われた性交類似行為であっても婚姻共同生活の平和維持という権利又は法的保護を侵害するに足りる」として不貞行為の成立を主張しました。

 これに対して被告は、「異性間の挿入行為を伴う性的行為はなく、男女間の性交渉に相当する行為はなかった」こと、「男女間の法律婚夫婦間においては、婚姻外の異性との間で性的関係を形成することのみが貞操義務に違反するものというべきで、同性間において性的行為が行われたことにより、男女間の婚姻関係における法的利益が侵害されることはない」と主張しました。

 裁判所は、被告がA(原告元妻)との間で性交類似行為を行ったことは、原告とA間の婚姻共同生活の平穏を侵害するもので、不法行為に当たると判断しました。

ウ 慰謝料の額について

 裁判所は、離婚にいたったことや行為態様、継続期間等の事情を考慮し、精神的苦痛に対する慰謝料を120万円としました。

 なお、原告は、異性間の不貞行為の場合に比して原告の被った精神的苦痛は大きい旨の主張をしていましたが、裁判所は、「夫婦の一方が第三者と性的行為を持つことにより夫婦のもう一方が被る精神的苦痛は、行為の相手方の性別に左右されるものではないというべき」として、同性間の行為であることを増額事由とはしませんでした。

 

3 おわりに

 以上見てきたように、同性間の肉体関係であっても、これを不貞行為とするか、不法行為とするかは別として、慰謝料請求は認められる場合があります。

 また、その場合の慰謝料の額について、⑶の裁判例によると、同性であることが減額事由にも増額事由にもならないものと考えられますし、筆者も同様に考えます。もっとも、⑵の裁判例は、同性同士であることを減額の考慮に入れているようにも読め、この辺りは今後の裁判例の積み重ねを待つ必要があるものと考えます。

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