2024/07/18 離婚・男女問題
財産分与における退職金の扱い
本コラムでは、財産分与における退職金の扱いについて説明します。
目次
1、はじめに
2、退職金について
3、将来支給される退職金について
⑴財産分与の対象となる将来の退職金
⑵算定方法
⑶清算の時点
4、おわりに
1、はじめに
清算的財産分与は、婚姻中に夫婦がその協力によって得た財産を婚姻の解消に当たって清算するものであるため、婚姻中に夫婦が協力して得た財産が清算の対象財産となります。
他方で、夫婦の一方が、婚姻前に取得した財産や、第三者から無償で得た財産、具体的には相続や贈与で得た財産については、夫婦の協力で得た財産ではなく、各自の特有財産(夫婦別産制を示す民法762条1項の「特有財産」とは意味が異なります。)となり、清算的財産分与の対象財産とはなりません。
婚姻後に取得した財産についても、当該財産の取得に対する夫婦の協力がなければ、清算的財産分与の対象財産となりません。
以下では、夫婦の一方が取得した(取得する)退職金が、財産分与の対象財産となるのかについて説明します。
2、退職金について
退職金については、功労報償的な性格及び生活保障的な性格のほか、賃金の後払い的性格を持つものと考えられています。そして、婚姻期間中の賃金は、夫婦の協力によって得た財産と考えられ、共有財産となるものですので、退職金についても財産分与の対象財産とされます。
もっとも、上記のとおり、財産分与の対象財産となるのは、夫婦の協力によって取得した財産であることから、夫婦の協力がない婚姻前に対応する部分については、財産分与の対象財産とならないものと考えられています。
裁判例(横浜家審平成13年12月26日家月54巻7号64頁)においても、退職金が、勤務期間12年2月(146か月)の期間を対象としたものである一方、夫婦が同居してその維持形成に寄与したのは5年8月(68か月)であった事案で、同居期間だけを寄与期間と計算すべきであるとして、退職金の額に、寄与期間率(同居期間÷勤務期間)を乗じた金額を財産分与の対象財産としています。
3、将来支給される退職金について
⑴財産分与の対象となる将来の退職金
離婚時(別居時)において、既に支給された退職金ではなく、将来支給される可能性のある退職金については、別途問題となります。
実務上は、退職金の支給の蓋然性が高い場合には、財産分与の対象財産となるものと考えられています。
支給の蓋然性については、勤務先の性質や支給根拠の有無等によって判断され、就業規則(賃金規程)等に支給の規定があれば、原則として、清算の対象となるものと考えられています(松本哲泓「離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務-」109頁(新日本法規、2018))。
⑵算定方法
将来支給される退職金の算定には次のような方法があります。
ア 基準時(別居時)に退職したものと仮定して算定する方法
財産分与の基準時となる、別居時に退職したものと仮定して、その時点での退職金の額(就業規則や賃金規程等から明らかになるもの)から、婚姻前に対応する部分を控除して(婚姻期間中に対応する分を算出して)、算定する方法です。
実務上は、基準時(別居時)での退職金の額に寄与の認められる期間の割合(同居期間÷勤務期間)をかけたもので算出されることが多くなっています。
イ 将来退職した際の見込額をベースに算定する方法
実務上は、上記の算定方法が多く用いられますが、将来退職した場合の見込み額を基準とする方法もあります。この場合は、将来退職した場合の退職金見込み額から、婚姻前と別居後退職するまでの期間に対応する部分を控除して算定します。
具体的には、将来退職した場合の退職金見込み額に、寄与の認められる期間の割合(同居期間÷勤務期間)をかけるという算定方法は上記と同じですが、ここで考慮する勤務期間には、別居後の期間も含まれます。
なお、この算定方法をとる場合には。見込み退職金額から中間利息控除を行い、現在価値に引き直したうえで、計算することとなります。
裁判例(東京地判平成11年9月3日判タ1014号239頁)としては、6年後に定年退職を迎えるケースで、6年後の退職時までの勤務期間総数271カ月のうちの実質的婚姻期間147カ月に対応する退職金につき、中間利息(法定利率5パーセント)を福利計算で控除して現在の額に引き直し、これを財産分与対象財産としたものがあります。
⑶ 清算の時点
退職金自体は将来支払われるものではありますが、清算の時点(分与の時期)は実務上、原則として、離婚時であると考えられています。もっとも、支給された時点での支払いとされる場合もあります。
裁判例においても、将来退職金が支給された際の支払いを命じたものがあります(広島高判平成19年4月17日家月59巻11号162頁、東京高判平成10年3月18日判時1690号66頁)。
なお、退職金が変動する可能性がある場合などに、あらかじめ特定の額を定めるのではなく、実際に支払われた金額を基礎として、算定するという方法が取られることもあります(大阪高判平成19年1月23日判タ1272号217頁)が、このような方法をとった場合には、強制執行において問題が生じるおそれがあります。
4、おわりに
以上、財産分与における退職金の扱いについて説明しました。事案に応じて、算定方法や清算の時点等を考えることが必要となりますので、この点で悩まれている方は一度弁護士に相談されることをお勧めします。