離婚・男女問題

2024/07/16 離婚・男女問題

不貞行為と違約金(或いは損害賠償額の予定)条項

 

1、はじめに

2、不貞行為の違約金条項(或いは損害賠償額の予定)に関する裁判例

3、面会・接触禁止等の条項に関する裁判例

4、おわりに

 

1、はじめに

 不倫が発覚した場合に、慰謝料の支払いの合意をするとともに、今後不貞行為を行った場合の違約金を定めることがあります。また、不貞相手(又は配偶者)への連絡や接触を禁止し、これについても違約金条項を入れることもあります。

 このような場合に、相手方が、当該条項に違反して再度不貞行為や不貞相手への接触を行った場合に、合意に基づいて違約金請求をすることができるのかについて説明します。

 

2、合意の有効性

 上記のような違約金を定める合意は、強迫や詐欺等によるようなものでない限り、基本的に有効であると考えられます。しかしながら、違約金の額が高額であった場合には、公序良俗違反であるとして、(その限度で)無効となることもあります。また、合意自体は有効であるとしても、その行使が権利濫用として認められない場合もあります。

 以下では、このようなケースについての裁判例を紹介します。

 

3、不貞行為の違約金(或いは損害賠償額の予定)条項に関する裁判例

⑴有効とした例

・東京地判令和31028

ア 事案の概要

 原告が、被告に対し、原告と被告との間には、原告の婚約者であるAと被告が不貞行為を行った場合、1回あたり100万円を支払うとの合意があったにもかかわらず、被告がこれに違反して6回性交渉をしたとして、600万円を請求した事案です。

 それ以前に、被告とAに性交渉があったことから、そのような内容の合意書が交わされていたという経緯です。

イ 裁判所の判断

 裁判所は、上記の合意について、損害賠償額の予定と解されるとしたうえで、「その内容が趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価できる場合など公序良俗に反する内容の場合には無効となる余地がある」との一般論を述べました。

 その上で、趣旨目的は、被告によるAとの再度の不貞行為を抑止することが主たる目的であって、過当な金銭を取得することが主たる目的とは認められないこと、性交渉(違反行為)が、合意作成日から発覚日まで半年以上に渡って繰り返されたものであること、違反行為の結果被告の子をAが妊娠したこと、違反行為が婚約関係に与えた影響は大きいことといった事情を考慮して、「本件違反行為による不貞行為の回数が6回であり、損害賠償額が600万円になるとしても、本件条項の趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはでき」ないとして、公序良俗に反して無効とはいえないものと判断し、600万円全額の支払いを命じました。

 なお、裁判所は、判断の中で、「短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性があり、事案によっては、本件条項の趣旨目的に照らして著しく過大な金額であるとの評価を受ける余地がないではない」と述べており、短期間に複数回繰り返された場合に、その全てについては認められない可能性があります。

ウ 解説

 不貞行為1回につき100万円という合意がされているにもかかわらず、複数回の不貞行為が行われた事案で、条項どおり回数分の損害賠償を認めたところに特徴があります。

 もっとも、裁判所は、短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性があることから、このような場合には著しく過大な金額(公序良俗違反)となる可能性を示唆しており、必ずしも回数分認められるものではないとも考えられます。

 

⑵一部否定した例

・東京地判平成17年11月17日

ア 事案の概要

 原告が、被告に対し、被告が原告の妻との間の不貞関係を断つことを誓約し、再び不貞行為を行った場合は5000万円を賠償する旨を合意していたにもかかわらず、被告が再び不貞行為に及んだとして、5000万円の損害賠償等を求めた事案です。

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「不貞行為についての損害賠償として、5000万円全額の支払を被告に命ずるというのは高額に過ぎ、被告の不貞行為の態様、資産状況、金銭感覚、その他本件の特殊事情を十分に考慮しても、なお相当と認められる金額を超える支払を約した部分は民法90条によって無効であるというべき」であると述べたうえで、

 5000万円という金額は、被告が自ら提示したものであること、被告は会社の代表者を務め、かなりの資力があること、不貞行為の態様も大胆不敵で違法性は強いというべきことといった事情を考慮したうえで、1000万円を限度として認めることが相当と判断しました。

ウ 解説

 この事案は、5000万円の合意について、1000万円の限度で認められるとした事案です。もっとも、裁判所が述べているとおり、資産状況や不貞行為の態様の悪質性等に照らして、1000万円という数字を認めているものであり、必ずしも1000万円であれば認められるということではないことに注意が必要です。

 

⑶否定したケース

・東京地判令和2年6月16日

ア 事案の概要

 原告が,妻の不貞相手である被告に対し,不貞行為1回につき100万円を支払うとする同人との間の合意に基づき、違約金100万円等を請求した事案です。

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「本件違約金条項は,被告とAとの不貞行為が原告の権利ないし法益を侵害することを前提とするものであるところ,不貞行為時において,既に婚姻関係が破綻していた場合には,それにより原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法益が侵害されたとはいえず,特段の事情のない限り,保護すべき権利又は法益がないというべきである。そうすると,本件違約金条項のうち,原告とAの婚姻関係破綻後について定めた部分は,公序良俗に反し無効と解するのが相当である」と述べ、婚姻関係破綻後について定めた部分については、公序良俗に反し無効となるとしました。

 その上で、被告とAが不貞行為に及んだ時点では、原告とAの婚姻関係は破綻していたと認められるとして、違約金の請求を認めませんでした。

ウ 解説

 違約金の合意があっても、婚姻関係破綻後の不貞行為であれば、その部分についての違約金の定めは公序良俗に反するとした点に特徴があります。

 なお、後述の裁判例のように、婚姻関係破綻後の不貞行為に対する違約金については、権利濫用として否定する例もあります。

 

4、連絡・接触禁止等の条項に関する裁判例

⑴部分的に認めた例

・東京地判平成25年12月4日

ア 事案の概要

 原告が、被告に対し、被告が原告の妻と不貞行為をした後、原告の妻と連絡をとらないことなどを約束した誓約書を取り交わしたにもかかわらず,その誓約に違反したとして、違約金1000万円などを請求した事案です。

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「本件違約金条項は,面会・連絡等禁止条項の違反について,違約金を課すものであると認められるところ,違約金は損害賠償額の予定と推定されるから,その額については,面会・連絡等禁止条項が保護する原告の利益の損害賠償の性格を有する限りで合理性を有し,著しく合理性を欠く部分は公序良俗に反する」と述べました。

 その上で、面会・連絡等禁止条項を相当な措置であるとしつつ、「面会・連絡等禁止条項に違反してAと面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は,その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられる」として、150万円を超える部分については、公序良俗に反して無効であると判断しました。

ウ 解説

 面会・連絡等禁止条項違反の違約金条項について、通常(損害賠償額の予定がない場合)認められる損害賠償額を参照したうえで、無効となる範囲を導き、1000万円のうち、150万円の限度で認めたものとなります。

 

⑵一部認め一部否定した例

・東京地判令和4年9月22日

ア 事案の概要

 原告が、夫の不貞相手である被告に対し、夫と連絡・接触した場合には、1回につき30万円を支払うとの合意があったにもかかわらず、これに違反したとして、回数分の違約金の支払いを求めた事案です。

イ 裁判所の判断

 裁判所は、まず、「連絡」の回数の捉え方について、「ラインメッセージの送信に係る「連絡」については、「1回」を1日単位で捉えることが、明確かつ合理的であ」るとしました。

 その上で、214日間にわたり行われたラインメッセージの送信について、婚姻関係が破綻するまでの期間にについて、違約金の発生を認めました。具体的には、違約金総額を5040万円とし、請求額の2340万円(一部請求の事案の為)の請求を認めました。

 なお、婚姻関係破綻後の部分についての違約金条項に基づく請求は、権利濫用となるとしています。

ウ 解説

 本事案は、連絡・接触を禁じる条項及び違反に対する違約金の発生が合意書に盛り込まれていた事案で、これに違反したとして、回数分の違約金の発生を認めたものになります。

本事案は、かなり高額な違約金を認めていますが、短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性がある場合に、公序良俗違反となる可能性を示唆した上記裁判例(東京地判令和31028日)もあり、必ずしも常に認められるものではないものと考えます。

 

5、おわりに

 不貞行為や接触を禁止する条項及び違約金の定めを設けた後、当該条項に違反して再度不貞行為や不貞相手への接触を行った場合の請求については、常に認められるものではなく、事案に応じて主張立証を行う必要があります。また、合意の締結段階でも有効と認められるラインを検討しておくことが望ましいものと思います。悩まれている方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

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