2024/07/10 離婚・男女問題
清算的財産分与における特有財産について
本コラムでは、清算的財産分与における特有財産について説明します。
1、清算的財産分与とは
2、清算的財産分与の対象外となる財産
3、財産分与における特有財産
4、問題となるケース
⑴不動産の頭金を配偶者の一方やその親が支払った場合
⑵特有財産によって取得した財産
⑶特有財産の果実
⑷特有財産の運用利益
5、おわりに
1 清算的財産分与とは
清算的財産分与とは、婚姻中に夫婦が得た財産は、原則として夫婦が協力して得たものと考えられるため、一方が財産の名義がその者にあるからといってこれを独占することは、不公平である(或いはそもそも実質的には共有財産である)ことから、離婚の際にはその清算として、財産を分配するというものです。
2、清算的財産分与の対象外となる財産
上記のように、清算的財産分与は、婚姻中に夫婦がその協力によって得た財産を婚姻の解消に当たって清算するものであるため、婚姻中に夫婦が協力して得た財産が清算の対象財産となります。「協力」については、個々の財産毎に具体的な協力を要するというものではなく、婚姻中に夫婦が取得した財産であれば、基本的には財産分与の対象財産に含まれます。
他方で、夫婦の一方が、第三者から無償で得た財産、具体的には相続や贈与で得た財産については、夫婦の協力で得た財産ではなく、各自の特有財産(夫婦別産制を示す民法762条1項の「特有財産」とは意味が異なります。)となり、清算的財産分与の対象財産とはなりません。
以下、財産分与における特有財産について、説明します。
3、財産分与における特有財産
⑴婚姻前から所有している財産
婚姻前から一方の配偶者が所有していた財産(不動産、預貯金、株式等)については、その配偶者の特有財産として、原則として財産分与の対象財産とはなりません。
⑵婚姻後に相続や贈与によって取得した財産
婚姻後に相続や贈与によって一方の配偶者が取得した財産については、その配偶者の特有財産として、原則として財産分与の対象財産とはなりません。
⑶当事者の合意によって特有財産とされた財産
当事者双方が婚姻期間中に取得した財産であっても、当該財産について、各名義人に帰属する旨の合意があった場合には、財産分与の対象財産とならない場合があります。
裁判例としては、婚姻前から夫婦のそれぞれが作家、画家として活動していたケースで、「婚姻後もそれぞれが各自の収入,預貯金を管理し,それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出するという形態をとっていたことが認められ,一方が収入を管理するという形態,あるいは夫婦共通の財布というものがな」いといった事情から、それぞれの名義の財産については、各名義人に帰属する旨の合意があったとして財産分与の対象財産としなかったものがあります。
4、問題となるケース
⑴不動産購入に当たって、頭金を特有財産で支払ったケース
婚姻後に不動産を購入した際、頭金を一方の配偶者の特有財産(婚姻前に所有していた預貯金等)で支払う場合や、一方の配偶者の親に支援を受けて支払う場合がありますが、これを財産分与においてどのように評価となります。
このような場合には、頭金に相当する分については、夫婦の協力によって取得した財産ではない財産によって取得されたことになります。実務では、財産分与の算定に当たっては、以下のような方法を用いて、頭金部分について考慮することがあります。
一つ目は、財産分与の対象財産の範囲に当たって、特有財産から支出された部分を除く方法です。例えば、5000万円の不動産の購入に当たって、1000万円を一方配偶者が特有財産から支出し、残りの4000万円については、ローンを組んで婚姻中に返済したような場合には、当該不動産の5分の1については、一方配偶者に特有財産によって取得されているものと考えられます。そこで、残りの5分の4のみを財産分与の対象財産とし、5分の1については、特有財産として、一方配偶者に取得させるというものです。
もう一つの方法としては、不動産全体については財産分与の対象財産としたうえで、当該不動産取得についての寄与割合の評価において、特有財産からの支出を考慮するという方法です。
⑵特有財産によって取得した財産
婚姻後に、一方の当事者が特有財産によって取得した財産については、基本的に特有財産になり、財産分与の対象財産になりません。婚姻前に有していた預貯金で不動産を購入した場合や、特有財産である不動産を売却して他の不動産を取得したような場合がこれに当たります。
裁判例(東京高判昭和57年2月16日判時1041号73頁)においても、配偶者の一方が、父から相続した土地を売却してその売却代金により取得した不動産について、特有財産として財産分与の対象財産から除いています。
⑶特有財産の果実
特有財産の果実(預貯金の利息、株式の配当金等)は、原則として特有財産となるものと考えられます。もっとも、配当金が生計に充てられている場合や、これのみで生活している場合等には、財産分与の対象財産となる場合があります。
⑷特有財産の運用利益
特有財産の運用利益については、運用に夫婦の協力があるような場合には、その部分については、分与対象財産に含まれることもあります。
不動産の賃料収入については、果実と捉え、これを財産分与の対象財産に含まないとする考え方もあるものと思いますが、不動産の運用(維持・管理含む)について、他方配偶者の協力・寄与があった場合には、その部分については対象財産に含まれることもあり得るものと考えます。もっとも、その場合であっても対象財産に含む範囲や、寄与割合等については、別途問題となるものと考えます。
また、運用利益のみで生活しているような場合や、運用を事業として行っているような場合には、財産分与の対象財産となる場合が多いものと考えられます。
5,おわりに
以上、特有財産について簡単に説明をしてきましたが、実際には個別事情によって検討する必要があります。また、実際に争っていく上では、立証の問題も考える必要があります。そのため、財産分与で悩まれている方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。