離婚・男女問題

2024/07/09 離婚・男女問題

扶養的財産分与とは

 

 本コラムでは、扶養的財産分与について、その概要を説明します。

 

目次

1、扶養的財産分与について

2、扶養的財産分与が認められる場合

3、扶養的財産分与の考慮要素

4、扶養的財産分与の対象財産

5、具体的分与額及び方法

6、裁判例

7、おわりに

 

1、扶養的財産分与について

 離婚後、夫婦の一方が他方に対して、財産の分与を請求することができます(民法768条1項)。財産分与の性質としては、①清算的要素、②扶養的要素、③慰謝料的要素の三つがあります(③慰謝料的要素については、含まないとする見解もあります。)。

 本コラムで説明する扶養的財産分与は、「離婚後経済的自立困難な配偶者に対する離婚後扶養として、あるいは、婚姻生活に起因し、離婚後に生じる経済的不利益・不均衡を是正するための離婚後補償として、財産的給付を行うもの」(二宮周平編『新注釈民法(17)399頁〔犬伏〕(有斐閣、2017)であり、一方配偶者が離婚後生活に困窮するような場合に、余裕のある他方配偶者に対して、財産的給付を求めるものです。

 目的については、「離婚後における一方の当事者の生計の維持を図ること」(最判昭和昭和46年7月23日民集25巻5号805頁)とされます。

 扶養的財産分与が認められる根拠としては、婚姻が終生の協同体であることを前提に、これが破綻した場合において、経済的余力のある一方配偶者が生活に困窮する他方配偶者を扶養することは当然であり、婚姻の予後効であるとする考え方(予後効説)のほか、婚姻生活中の役割分担(特に夫婦の一方が家事労働に専従したような場合)の結果、一方配偶者の所得獲得能力が失われた場合に、これを回復するということ(補償的財産分与説)を挙げる見解があります。

 

2、扶養的財産分与が認められる場合

 離婚後の夫婦は、各自の経済力に応じて生活することが原則であることから、扶養的財産分与は当然に認められるものではなく、一方の夫婦が離婚後経済的に自立して生活することが困難な場合に、補充的に認められるものとの考え方が多数説です。

(なお、若干細かい話ですが、「扶養」に替えて上述のような「補償」としての財産分与であるとする考え方からは、一方配偶者が生活困窮することを必ずしも条件とするものではないとも考えられます。)

 実務上は、原則として、清算的財産分与と離婚慰謝料により、生計を維持できる財産が分与されるのであれば、基本的には、扶養的財産分与は認められないものと考えられています。

 

3、扶養的財産分与の考慮要素

 扶養的財産分与が認められるか及び認められるとしてその金額については、以下のような事情を考慮して決められます。

⑴財産状況

 実務上、扶養的財産分与が認められるには、権利者(財産分与を受ける側)が要扶養状態であることが求められるため、権利者にそれなりの財産があるのであれば、扶養的財産分与を否定する方向の事情となります。

 また、義務者(分与する側)の資力が十分でないことも、否定する事情となります。

 

⑵清算的財産分与及び慰謝料の額

 清算的財産分与及び慰謝料の支払いによって生計を維持できる程度の財産が分与されるのであれば、扶養的財産分与は否定される方向に傾きます。

 実務上の一つの目安として、7桁万円以上の給付がある場合には、基本的に扶養的財産分与が否定されるとする見方もあります。

 

⑶稼働能力(就労可能性)

 義務者の側の収入状況及び将来の収入見込みと権利者の側の収入状況及び将来の収入見込みがそれぞれ考慮されます。

 義務者が高齢者や病気であり、収入がなく、将来の就労可能性もないといった事情は扶養的財産分与を肯定する方向に働きます。

 他方で、自立可能な収入があることや、義務者の側に十分な収入がないといった事情は、扶養的財産分与を否定する方向に働きます。

 裁判例としては、義務者(被請求者)の側が交通事故の後遺障害のために将来定職に就くことは実際上困難である事情を考慮して、扶養的財産分与の給付を否定したもの(大阪高決平成17年6月9日家月58巻5号67頁)があります。

 

⑷被扶養者の存在

 義務者の側に要扶養家族がいることは、扶養的財産分与を否定する方向の事情として考慮されます。

 権利者の側に幼い子がいることにより、権利者の就労が制限されるような場合には、これも考慮されます。なお、子の扶養の必要性それ自体は、(義務者に扶養義務があることが前提となりますが)、養育費の問題であり、扶養的財産分与の問題とは別物と考えられます。

 

⑸有責性

 有責性が大きい場合、公平上、相手方の生計を維持する責任は、より大きくなると考えられ(松本哲泓「離婚に伴う財産分与」171頁(新日本法規、2019))るため、扶養的財産分与を肯定する方向の事情となります。

 他方で、権利者が有責配偶者である場合については、否定する方向に傾くものと考えられます。裁判例(岐阜家審昭和57914日家月36478頁)においても、「申立人は、相手方との生活に見切りをつけ他男と共に出奔することによつて内縁関係を解消したものであるから、離婚慰藉料的財産分与や離婚後扶養的財産分与を求めることは信義則上許されないものと解される」として、扶養的財産分与を否定したものがあります。

 

4、扶養的財産分与の対象財産

 扶養的財産分与は、夫婦が協力によって得た財産の清算である清算的財産分与とは異なり、一方配偶者の生計維持という点から決められるため、特有財産についても、財産分与の対象となります。

 

5、具体的分与額及び方法

 扶養的財産分与の目的は上述のように、「離婚後における一方の当事者の生計の維持を図ること」であるため、生活費の給付とされることが一般的です。

具体的な支払額としては、離婚後、1年間ないし3年間、最大5年間程度の婚姻費用相当額とすることが多い(秋武憲一「離婚調停(第4版)」375頁(日本加除出版、2021))ものとされています。

 期間については、「生計の維持」という目的から、自身で生計の維持ができるようになるまでどれくらいの期間を要するかという点が考慮され、年齢が若い場合には比較的短く、高齢になると長くなるものと考えられます。

 裁判例としては、権利者が73歳であったケースで、「月額一〇万円ずつを少なくとも平均余命の範囲内である今後一〇年間の生活費として負担を命じることは相当」とし、生活費にかかわる財産分与として1000万円の支払いを命じたもの(東京高判平成元年11月22日家月42巻3号80頁)があります。高齢であったことのみではなく、その他の事情も考慮されての判断ですが、月10万円×10年分という判断(「一切の事情を考慮」し、金額自体は1000万円)をしたものとなります。

 

 支払い方法としては、一括払いのほか、定期金払い(毎月一定額を支払う方法)による場合もあります。住居の確保が必要となるような場合には、義務者が所有する不動産への利用権の設定が認められることもあります。

 裁判例としては、離婚成立日から7年以上の使用借権の設定を認めたもの(名古屋高決平成18年5月31日家月59巻2号134頁)があります。

 

6、裁判例

⑴東京高判昭和6367日判時128196

ア 事案の概要

・請求者妻

・夫有責配偶者(不貞)

・妻75

・妻は住居安定せず、子どもの援助で生活

・妻には見るべき資産なし

・夫には、収入、資産あり。

イ 裁判所の判断

 妻は、75才であり、離婚によって10年はあると推定される老後を生活の不安に晒されながら生きていくことになりかねないとし、諸事情を考慮の上、1200万円の財産分与を相当としました。

 

⑵横浜地裁川崎支判昭和43年7月22日判タ227号217頁

ア 概要

・請求者妻

・夫有責配偶者(不貞)

・妻は、結婚と同時に勤務先を退職し、もっぱら夫の収入によって生活

・財産分与の対象となるような格別の財産なし

 

イ 裁判所の判断

 裁判所は、離婚後三年間、元夫が妻に対し、毎月その月給手取額の約三分の一を支払うことを相当としました。

 

7、おわりに

 以上、扶養的財産分与について概要を説明しました。実務上、扶養的財産分与が認められるケースは多いものではなく、例外的なものとなっていますが、およそ認められないというものではありません。

 個別事情を踏まえて主張立証を行うことが必要となりますので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

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