2024/06/27 離婚・男女問題
裁判上の離婚が認められる理由(離婚事由)とは?
本コラムでは、裁判上の離婚が認められる事由について、概要を説明します。
目次
1、はじめに
2、離婚事由
⑴配偶者に不貞な行為があったとき
⑵配偶者から悪意で遺棄されたとき
⑶配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
⑷配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑸その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
3、一切の事情を考慮して婚姻の継続が相当とされる場合
4、おわりに
1,はじめに
民法上、離婚は当事者が合意をすることにより、することができます(民法763条)。他方で、一方当事者が離婚を拒んでいる場合など、当事者間で合意に至らない場合には、協議による離婚はできません。一方当事者が離婚する意思を固め、これを通知したとしても、離婚することはできません。
そして、協議による離婚ができない場合には、裁判による方法がありますが、離婚の判決がされるためには、法が定める離婚事由が存在する必要があります(民法770条)。
以下では、法が定める離婚事由について、その概要を説明します。
2、離婚事由(民法770条1項各号)
⑴配偶者に不貞な行為があったとき(民法770条1項1号)
不貞行為とは、婚姻している者が配偶者以外の者と性的関係を結ぶことを指します。
当然ではありますが、離婚事由となるのは、あくまでも(請求する者の)配偶者の不貞行為であるため、自身の不貞行為を理由として、離婚の請求をできるものではありません。
本号の不貞行為について、学説上は、性的関係を結ぶこと(性交)に限定するとする見解が通説的なものとなっています。
判例(最判昭和48年11月25日民集27巻10号1323頁)においても、「「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」とされています。
また、この判例によれば、「「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて」行ったものであるとされます。
そのため、自由な意思に基づかないものであれば、民法770条1項1号にいう不貞行為には当たらないものと考えられます。
したがって、強制性交の被害にあった場合等には、本号の不貞行為には当たりません。
本号に当たるかについて、①同性と性的関係をもった場合、②相手方が性風俗業に従事するものである場合、③生活のためやむなく行った性交渉である場合、④不貞を承諾していた場合、⑤宥恕した場合に問題となるケースがあります。
これらの詳細については、別コラムで説明していますので、ご参照ください。
⑵配偶者から悪意で遺棄されたとき(民法770条1項2号)
遺棄とは、形式的な置き去り、家出のみならず、民法770条1項2号の「遺棄」とは、夫婦の同居・協力及び扶助の義務(民法752条)を履行しないことをいいます。
裁判例(新潟地判昭和36年4月24日下裁民12巻4号857頁)においても、「「遺棄」とは、正当の理由なくして同法第七五二条に定める夫婦としての同居および協力扶助義務を継続的に履行せず、夫婦生活というにふさわしい共同生活の維持を拒否すること」であるとされています。
本号にいう「悪意」とは、単に知っているという意味よりも一段強い意味を持ち、社会的・倫理的に非難されるべき心理状態を指すものであると考えられています。
なお、家を出たような場合であっても、正当な理由がある場合には「悪意の遺棄」には当たりません。例えば、DVによって別居せざるを得なくなった場合等には、別居には正当な理由があるものとして、悪意の遺棄には当たらないものと考えられます。
判例(最判昭和39年9月17日民集18巻7号1461頁)においても、上告人である妻が、夫の意思に反して、妻の兄らを同居させ、兄らのため、ひそかに夫の財産より多額の支出等をしていたことが原因となって夫が妻に対し同居を拒んだケースで、悪意の遺棄には当たらないものと判断しました。
⑶配偶者の生死が三年以上明らかでないとき(民法770条1項3号)
配偶者の生死が3年以上明らかでないときは、離婚事由となります。生死不明の原因や配偶者の帰責性は求められません。
「生死」が明らかでないときであるため、単なる行方不明はここには含まれません。 3年の起算点は最後の消息があった時と理解されています。
3号の適否が問題となったケースは第二次世界大戦後の未帰還者に関するものが多く、最近の裁判例はみられません。
⑷配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(民法770条1項4号)
配偶者が強度の精神病に罹患し、協力義務(民法752条)を果たすことができず、夫婦共同生活を維持できなくなった以上、婚姻関係は破綻しているといえ、他方配偶者にそのような状態の継続を強いることは酷であることから、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」は離婚事由とされています。
本号の精神病として、裁判例で問題となっているケースの多くが統合失調症のケースです。
本号の「強度の精神病」か否かの基準として、裁判例では、実質的に夫婦の協力義務(民法752条)を履行することができない程度の精神病であるかどうかという点から判断するものとしたものがあります。
本号の適用に当たっては、強度の精神病が「回復の見込みがないこと」が求められます。回復の見込みがないとは不治を意味しますが、その程度については、裁判例では、「通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務にたえられる程度にまで回復できる見込み」や、「夫婦の相互協力義務を果たしうる程度に至るまでの回復」を基準として判断しています。
なお、民法770条2項は、「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」として、1号から4号の離婚事由がある場合にも、離婚の請求を棄却できる場合を定めています。
そして、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号)である場合には、この裁量棄却が問題となります。
この点について、判例(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)では、4号を離婚事由とする離婚の請求が許されるには、①病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じること、②ある程度において、前途にその方途の見込みのついた上でなければならないとされています。
具体的な内容として、その後の裁判例では、当該配偶者の離婚後の生活及び療養費用の確保、看護のための引受先といった点について、検討されています。
上記判例が示したこのような考え方を具体的方途論といいます。
上記判例に対しては、学説からの批判も多く、またその後の裁判例及び判例により、実質的に緩和されているとする見解もあります。
なお、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)には当たらないとしても、別途「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)に当たるとして離婚請求が認められる可能性はあり、近年の裁判例では、むしろ5号で認めたケースのほうが多くなっています。
⑸その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
770条1項1号から4号の離婚事由に該当しなくとも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(770条1項5号)には、離婚が認められます。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態を意味するものと捉えられています。
実際の訴訟で問題となる事由としては、暴言、暴行、重大な侮辱、宗教活動へののめり込み、性生活の不一致、疾病、傷害、性格の不一致といったものが挙げられ、「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかが問題となります。
もっとも、類型的に「婚姻を継続し難い重大な事由」の当否が決まるものではなく、個別事情を踏まえて、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態であるかという点から判断されます。
4,おわりに
本コラムでは、裁判上の離婚事由について簡単に概要を説明しました。実際には、個別事情を踏まえて検討する必要あり、また1号から4号の事由に当たらなくとも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として離婚が認められるケースはあります(むしろ、実務上はこちらのほうが多いものと考えられています。)ので、離婚事由の判断に当たっては、一度弁護士に相談されることをお勧めします。