2024/06/24 不動産
【令和3年改正】賛否不明共有者がいる場合における共有物管理の裁判手続き
【令和3年改正】賛否不明共有者がいる場合における共有物管理の裁判手続き
本コラムでは、令和3年改正で新設された、賛否を明らかにしない共有者がいる場合における共有物管理の裁判手続きについて説明します。
1、問題の所在
2、新設された規定
⑴規定の概要
⑵催告
⑶相当の期間
⑷変更について
3、手続きの概要と流れ
⑴申立て
⑵裁判所による通知
⑶期間の経過及び賛否の不明
⑷賛否不明共有者以外の共有者間での意思決定
1、問題の所在
共有物の管理に関する行為については、持分価格の過半数の同意が必要となります。ただ、共有物の管理に無関心な共有者がいる場合もあり、そのような場合については過半数の同意を得ることができず、当該行為についての意思決定ができなくなるといった状況が存在しました。
そこで、令和3年の民法改正では、共有者が、他の共有者に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときに、裁判所の決定を得ることで、管理について決定することができる場合を定める規定が新設されました。
2、新設された規定
⑴規定の概要
令和3年改正後民法252条2項柱書は、「裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。」とし、同項2号で、「共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。」と定めました。
この規定が新設されたことにより、相当の期間を定めて管理に関する事項を決することについて相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、期間内に賛否が明らかにされない場合には、裁判所の決定を得ることで、当該賛否を明らかにしない共有者以外の共有者の持分価格の過半数で管理に関する事項を決することができるようになりました。
⑵催告
基本的には、当事者である共有者が他の共有者に対して意見を尋ねた上で利用すべきであること、他の共有者にとっても、共有者間の調整を経ずに唐突に裁判所から意見を求められるような事態は望ましくないと思われることから、まず共有者が他の共有者に対し催告をしても賛否が明らかにされないことを前提とし、さらに、後述のとおり、裁判をする前に、裁判所から他の共有者に対して賛否を明らかにするように求め、それによっても賛否が明らかにされない場合に裁判をするという仕組みとなっています(民法・不動産登記法部会資料56補足説明参照)。
そのため、裁判に先立って、共有者が当該他の共有者に対し、相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨の催告を行う必要があります。
⑶相当の期間に
催告については、「相当の期間」を定めるものとされていますが(民法252条2項2号)、この相当の期間とは、返答に応じるのを検討する期間であり、解除の際と同様に2週間程度 を要することとなると考えられています(民法・不動産登記法部会資料56補足説明参照)。
⑷変更について
改正に当たって、共有物の変更(民法251条)についても、賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、裁判を得て、他の共有者の同意によって変更行為を可能とする場合の規定を設けるかについても議論がなされましたが、「共有物の変更行為は、その行為の重大性から、これを実施するのに共有者全員の同意が要求されているのであり、共有者の一部が同意をしていなくても実施ができる行為とは、利益状況が異なる」(民法・不動産登記法部会資料41)といった点から、最終的に変更行為についての定めは設けられていません。
3、手続きの概要と流れ
⑴申立て
ア 申立人
対象となる共有物について持分を有する共有者(民法252条2項2号)
イ 申立先
対象となる共有物の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法85条1項)
ウ 添付書類
・弁護士が代理人となるときはその委任状
・申立人又は共有者が法人(会社など)の場合は全部事項証明書又は資格証明書
・不動産又は不動産に関する所有権以外の財産権の場合には、不動産登記事項証明書(共有・管理非訟規則6条)
・共有物の管理に関する事項につき賛否を明らかにすべき旨を催告した書面等の資料の写し
・申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則37条3項)
⑵裁判所による通知
申立があった場合、裁判所は、下記の事項について、当該他の共有者に通知をします(非訟事件手続法85条3項)。
①当該共有物について、裁判の申立てがあったこと。
②当該他の共有者は裁判所に対し一定の期間内に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
③②の期間内に当該他の共有者が裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、裁判がされること。
なお、②の期間については、一箇月を下ってはならないものとされています。
⑶期間の経過及び賛否の不明
上記②の期間が経過していない場合、賛否が明らかにされた場合には、裁判所は、裁判をすることができません。
⑷賛否不明共有者以外の共有者間での意思決定
裁判所が、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判を出し、これが確定したのち、当該他の共有者以外の持分価格の過半数で意思決定をし、管理に関する事項を決定することができます。