不動産

2024/06/17 不動産

【令和3年改正】共有不動産における所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度について

 

 本コラムでは、令和3年改正によって新設された共有不動産における所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与する制度(民法262条の3)について、説明します。

 

目次

1、所在等不明共有者の問題

2、所在等不明共有者の持分の譲渡手続きの概要

 ⑴譲渡手続き

 ⑵申立て

 ⑶公告

 ⑷供託

3、所在等不明共有者の持分譲渡制度の概要

 ⑴所在等不明共有者について

 ⑵停止条件及び譲渡

 ⑶所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合

 ⑷時価相当額の支払い請求権

 

1、所在等不明共有者の問題

 共有者が、共有不動産を手放す方法としては、①共有持分を放棄する方法、②贈与する方法、③自身の共有持分のみを売却する方法、④共有不動産全体を売却する方法等が考えられます。

 当該共有不動産に経済的価値が認められる場合には、③及び④を選択することが多いものと思われます。

 ③の自身の共有持分のみの売却については、共有者が単独で行うことができるのに対し、④の共有不動産全体の売却については、共有者全員の同意が必要となります(民法2511項)。ただ、共有持分のみの売却については、不動産全体を売却した場合に比べて、共有減価と呼ばれる減価がされることが一般的であり、経済的利益を最大化するには、不動産全体での売却が好ましいことが一般的です。

 もっとも、所在等不明共有者がいる場合、共有者全員の同意を得ることができず、共有物分割及び新設された持分取得の手続きを用い、所在等不明共有者の持分を取得してから共有物を売却する方法もありますが、手間がかかることとなります。

 このような状況に対応するために令和3年改正で創設された制度が、所在等不明共有者の持分について、所在等不明共有者以外の共有者の全員が、特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する裁判を認めたものが所在等不明共有者の持分譲渡制度です。

 以下、所在等不明共有者の持分譲渡制度について、手続きの流れと概要について説明します。

 

2、所在等不明共有者の持分の譲渡手続きの流れ

⑴譲渡手続き

 譲渡権限の付与については、「不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。」(民法262条の3第1項)とされており、共有者の申立によって、裁判所が裁判により行うものとされています。

⑵申立て

ア 申立人

 対象となる共有不動産について持分を有する共有者(民法262条の3第1項)

イ 申立先

 対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法88条1項)

ウ 添付書類

・弁護士が代理人となるときはその委任状

・申立人又は共有者が法人(会社など)の場合は全部事項証明書又は資格証明書

・不動産の登記事項証明書(共有・管理非訟規則6条)

・所在等不明共有者の持分が相続財産である場合は、戸籍謄本又は附票や家事調停・遺産分割協議等の資料の写し

・対象不動産の不動産鑑定書や簡易鑑定書、固定資産税評価証明書等

・所有者・共有者の探索等に関する報告書

・共有者の所在等が不明であることを裏付ける関係資料の写し(住民票、戸籍謄本、返却された郵便物、捜索願、他の共有者から聴取した書面等

・申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則37条3項)

 

⑶公告

 所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与する旨の裁判をするためには、裁判所は、以下の事項を公告しなければなりません(非訟事件手続法882項、812項)。

 ①所在等不明共有者の持分について、所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与する裁判の申立てがあったこと。

 ②裁判所が所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与する裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にそ の旨の届出をすべきこと。

 ③②の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。

 また、②の期間については、3か月を下回ってはならないものとされています。

 

⑷供託

 裁判所は、所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与する旨の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないとされ(非訟事件手続法882項、87条5項。)、申立人が供託命令に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない(非訟事件手続法882項、87条8項)とされています。

 そのため、持分の譲渡権限付与の裁判を申し立てた共有者は、時価相当額を供託する必要があります。

 なお、所在等不明共有者の持分取得の手続きに当たっては、共有減価をされる場合がありますが、譲渡権限を付与の手続きについては、共有者全員で持分の全部を譲渡することが停止条件となっており、譲受人は共有不動産について単独所有権を得ることとなるため、共有減価はされません。

 

3、所在等不明共有者の持分譲渡制度の概要

⑴所在等不明共有者について

 共有者に持分の譲渡権限を付与する旨の裁判がされるためには、「他の共有者を知ることができない場合又は他の共有者の所在を知ることができない場合であること」(民法262条の3第1項)が求められます。

 法制審議会民法・不動産登記法部会の部会資料によれば、「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名又は名称やその所在を知ることができないときをいうものとされています。

 また、共有者が法人である場合には、その本店及び主たる事務所が判明せず、かつ、代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに、「所有者の所在を知ることができない」ときに該当するものと考えられています。

 

⑵停止条件及び譲渡

 持分の譲渡権限を付与する裁判は、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件とする(民法262条の3第1項)ものであるため、権限の付与により、当然に持分が譲渡されるものではありません。

 他の共有者が第三者に対して、共有者らの有するすべての持分を譲渡し、譲渡権限を付与された共有者が、所在等不明共有者の持分についても、同一の者に譲渡することにより、所在等不明共有者の持分が譲渡されます。

 なお、各譲渡については、原則として持分の譲渡権限を付与する旨の裁判の効力が生じた後2か月以内に、行う必要があります(非訟事件手続法883項本文)。

 

⑶所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合

 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合、つまり譲渡権限付与の対象となる共有持分について遺産分割が未了の状態である場合であって、相続開始の時から10年を経過していないときは、持分を取得させる旨の裁判はできないものとされています(民法262条の3第2項)。

 

⑷時価相当額の支払い請求権

 譲渡権限を付与する旨の裁判により付与された権限に基づいて共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができます(民法262条の3第3項)。

 なお、前述のとおり、所在等不明共有者の持分取得の手続きとは異なり、共有減価はされません。

 

Contactお問い合わせ

お電話でのお問い合わせ

04-7197-1166

〈受付時間〉月〜土曜 9:00〜18:00

メールでのお問い合わせ 24時間受付中

© 虎ノ門法律経済事務所 柏支店 – 千葉県・柏市の弁護士へ法律相談