2024/06/15 不動産
【令和3年改正】共有不動産における所在等不明共有者の持分取得制度について
本コラムでは、令和3年改正によって新設された共有不動産における所在等不明共有者の持分取得制度(民法262条の2)について、説明します。
目次
1、所在等不明共有者の問題
2、所在等不明共有者の持分の取得手続きの概要
⑴取得手続き
⑵申立て
⑶公告
⑷他の共有者への通知
⑸供託
3、所在等不明共有者の持分取得制度の概要
⑴所在等不明共有者について
⑵請求をする共有者が複数である場合
⑶共有不動産について、共有物分割の請求又は遺産分割請求がある場合
⑷所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合
⑸時価相当額の支払い請求権
4、所在等不明共有者の調査方法
⑴所有者が自然人である場合
⑵所有者が法人である場合
1、所在等不明共有者の問題
共有不動産において、共有者が他の一部の共有者を知ることができず、又はその共有者の所在を知ることができないときがあります。
このような場合、共有者は全員の同意が必要とされる変更、処分行為(共有不動産の売却や借地借家法の適用のある賃貸借契約等)をすることができず、共有者は不利益を被ることになります。また、管理にも支障をきたします。
そこで、令和3年の民法改正により、所在等不明共有者がいる場合に、その者の共有持分を他の共有者が取得できる規定が設けられました。
本コラムでは、創設された所在等不明者の持分の取得について、その概要と手続きの流れについて説明します。
2、所在等不明共有者の持分の取得の手続きの概要
⑴取得手続き
民法262条の2第1項前段は、「不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる」としており、共有者が、裁判所に申し立て、持分を取得させる旨の裁判を得ることによって、持分を取得することとなります。
⑵申立て
ア 申立人
申立人は、対象となる共有不動産について持分を有する共有者(民法262条の2第1項)となります。
イ 申立先
申立先は、対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法87条1項)です。
ウ 添付書類
・弁護士が代理人となるときはその委任状
・申立人又は共有者が法人(会社など)の場合は全部事項証明書又は資格証明書
・不動産の登記事項証明書(共有・管理非訟規則6条)
・所在等不明共有者の持分が相続財産である場合は、戸籍謄本又は附票や家事調 停・遺産分割協議等の資料の写し
・対象不動産の不動産鑑定書や簡易鑑定書、固定資産税評価証明書等
・所有者・共有者の探索等に関する報告書
・共有者の所在等が不明であることを裏付ける関係資料の写し(住民票、戸籍謄 本、返却された郵便物、捜索願、他の共有者から聴取した書面等) □申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則37条3項)
⑶公告
持分取得の申立があった場合には、裁判所は以下の各事項を公告しなければなりません(非訟事件手続法87条2項)。
①所在等不明共有者の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。
②裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出を すべきこと。
③民法第二百六十二条の二第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)の異議の届出(後述の共有物分割の請求又は遺産分割請求がある場合)は、一定の期間内にすべきこと。
④②及び③の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。
⑤所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
また、②、③及び⑤の期間については、3ヶ月を下回ってはならないものとされています。
⑷他の共有者への通知
裁判所は、⑶の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、上記②以外の公告した事項を通知しなければなりません(非訟事件手続法87条3項)。
⑸供託命令
非訟事件手続法において、裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないとされ(非訟事件手続法87条5項。)、申立人が供託命令に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない(非訟事件手続法87条8項)とされています。
そのため、持分取得の裁判を申し立てた共有者は、後述の時価相当額を供託する必要があります。
なお、時価相当額の判断にあったっては、共有減価がなされる場合があります。
3、所在等不明共有者の持分取得制度の概要
⑴所在等不明共有者について
前述のとおり、共有者に持分を取得させる旨の裁判がされるための要件として、他の共有者を知ることができない場合又は他の共有者の所在を知ることができない場合であることが求められます。
法制審議会民法・不動産登記法部会の部会資料によれば、「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名又は名称やその所在を知ることができないときをいうものとされています。
また、共有者が法人である場合には、その本店及び主たる事務所が判明せず、かつ、代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに、「所有者の所在を知ることができない」ときに該当するものと想定されています。
⑵請求をする共有者が複数である場合
持分の取得を請求した共有者が複数であった場合については、民法262条の2第1項後段が、「請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。」としており、請求した各共有者が、所在等不明共有者の持分をそれぞれの持分割合で按分して取得することになります。
⑶共有不動産について、共有物分割の請求又は遺産分割請求がある場合
対象とされている共有不動産について、共有物分割の請求(民法258条1項)又は遺産分割の請求があり、かつ所在等不明共有者以外の、共有者が、持分取得の請求を受けた裁判所に持分の取得の裁判をすることについて異議の届出をしたときは、裁判所は持分を取得させる旨の裁判をすることができないものとされています(民法262条の2第2項)。
部会資料によれば、「他に分割請求事件が係属しており、その中で、所在等不明共有者の持分も含めて全体について適切な分割を実現することを希望している共有者がいるケースでは、基本的にはその分割請求事件の中で適切な分割をするべきであり、それとは別に、所在等不明共有者の持分のみを共有者の1人が取得する手続を先行させるべきではない」ためであると説明されています。
⑷所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合
所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合、つまり取得対象の共有持ち分について遺産分割が未了の状態である場合あって、相続開始の時から10年を経過していないときは、持分を取得させる旨の裁判はできないものとされています(民法262条の2第3項)。
⑸時価相当額の支払い請求権
共有者が、持分を取得させる旨の裁判により、所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができるとされています(民法262条の2第4項)。
4、所在等不明共有者の調査方法
⑴所有者が自然人である場合
部会資料によれば、「所在を知ることができないかどうかの調査方法については、少なくとも、①所有者が自然人である場合には、登記簿上及び住民票上の住所に居住していないかどうかを調査する(所有者が死亡している場合には、戸籍を調査して、その戸籍の調査で判明した相続人の住民票を調査する)こと」が挙げられています。
⑵所有者が法人である場合
同じく部会資料によれば、所有者が法人である場合には、「イ)法人の登記簿上の所在地に本店又は主たる事務所がないことに加え、ロ)代表者が法人の登記簿上及び住民票上の住所に居住していないか、法人の登記簿上の代表者が死亡して存在しないことを調査すること」が挙げられています。
もっとも、上記の調査方法はあくまで一例であるため、事案ごとに必要な調査を行う必要があります。