2024/06/13 不動産
共有物分割とは~概要と分割方法について~
共有物分割とは~概要と分割方法について~
本コラムでは、共有物の分割について、その概要と分割方法について説明します。
目次
1、共有とは
2、共有物の分割請求
⑴共有物分割請求を行うことができるタイミング
⑵共有物の分割方法
⑶共有物分割請求を行うことができない場合
3、共有物分割の進め方
⑴協議
⑵調停
⑶訴訟
1、共有とは
複数人が一つの物の所有権を有している状態を共有状態といいます。不動産を共同で購入した場合や、相続によって複数人が所有することとなった場合などに、共有状態が生じることがあります。
共有物については、保存行為は単独で行うことができますが、管理に関する事項や処分については単独で行うことができないといった制約があり、共有者間で協議が整わない場合や意向が異なる場合に、有効活用が妨げられる場合があります。
このような共有関係の解消のためのものとして、共有者は、共有物の分割請求(民法256条1項)という権利を有します。以下、共有物分割請求権について、その中身と方法について説明します。
2、共有物の分割請求(民法256条1項)
⑴ 共有物分割請求を行うことができるタイミング
民法256条1項は「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定めており、各共有者はいつでも分割の請求をすることができます。もっとも、同項但し書きは、「五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない」と規定しており、分割禁止の合意がある場合は、その期間(5年を超えない期間に限る)は、分割請求ができません。
⑵ 共有物分割の方法
ア 協議による場合
当事者の協議による方法の場合、分割方法に決まりはなく、強行規定に反しない限り、合意によって自由に定めることができます。実務上は、分筆して分筆後の土地を各々の単独所有とする方法や、他の共有者の持ち分を買い取る方法や、共有物を共有者全員で売却し、売却代金から諸経費を控除したものを持分割合に応じて取得するといった方法が取られます。
イ 裁判による場合
裁判による共有物の分割(民法258条)については、以下の三つの方法(現物分割・賠償分割・換価分割)による分割となります。
(ア)現物分割
現物分割(民法258条2項1号)とは、共有物を物理的に分割する方法です。契約関係に引き直すと、共有持分の交換契約又は売買契約であ ると考えられます。
ⅰ 土地が共有である場合
土地を分筆して共有者各々の単独所有とする分割方法です。
分筆することにより、分筆後の個々の土地面積が小さくなるような場合には、現物分割ができないものと判断される場合があります。
ⅱ 建物が共有である場合
建物については、構造上・利用上の独立性が認められるような場合には、区分所有による現物分割が可能な場合があります。
もっとも、構造上・利用上の独立性が認められず、区分所有化ができない場合には、現物分割はできません。
ⅲ 建物とその敷地である土地の両方が共有である場合
建物を区分所有化することが可能であれば、敷地権化したうえで(土地については共有状態が続きます。)、分割する方法があります。
ⅳ 複数の不動産が共有である場合について
複数の共有不動産がある場合には、「分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、これらの不動産が外形上一団とみられるときはもとより、数か所に分かれて存在するときでも、右不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許されるもの」(最判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁)とされており、各共有者がそれぞれの不動産を単独所有する形で分割する方法も認められています。
(イ)賠償分割(価格賠償)
賠償分割(価格賠償)とは、共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法(民法258条2項2号)です。共有者の一人が他の共有者に金銭を支払って、他の共有者の持分を取得し、単独所有とする場合等がこれに当たります。
全面的価格賠償による分割が可能な場合として、判例(最判平成8年10月31日判時1592号59頁)は、「当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」については、全面的価格賠償の方法による分割も許されるとしました。
上記判例からすると、各要素を踏まえて、①特定の共有者に共有物を取得させることの相当性、②取得金額の適正さ、③取得者の支払能力という点を考慮し判断することとなります。
(ウ)換価分割(競売分割)
換価分割とは、競売によって、共有物を第三者に売却し、売却代金を共有者間で分配する方法による分割方法です。この分割方法は、「前項に規定する方法(現物分割及び賠償分割)により、共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき」に命ずることができるものとされており(民法258条3項)、前述の現物分割及び賠償分割ができない或いは現物分割の方法をとった場合に著しく価格を減少させるおそれがある場合に、採られることになります。
つまり、裁判による共有物の分割においては、競売分割は最も劣後する分割方法ということになります。
(エ)複数の分割方法の組み合わせ
共有物の分割方法について、判例は、「民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許される」(最判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁)としており、現物分割と賠償分割を組み合わせた分割方法を認めています。
(オ)分割を裁判において請求する為の条件
共有物の分割は、「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき」(民法258条1項)に裁判所に請求できるものとされています。
したがって、協議が可能である場合に、協議をせずにいきなり裁判所に請求できるというものではありません。
なお、「協議をすることができないとき」の例としては、共有者の一部に共有物分割の協議に応ずる意思がない場合(最判昭和46年6月18日民集25巻4号550頁)や、所在不明といった場合があげられます。
⑶ 共有物分割請求を行うことができない場合
ア 法律上分割できない場合
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀(民法229条)については、共有物分割請求を行うことができないものとされています(民法257条)。
イ 権利濫用
共有物分割請求は共有者の権利ではありますが、共有物分割請求が権利の濫用(民法1条3項)とされる場合には、例外的に共有物分割請求が否定されます。
(ア)否定例①(東京高判平成25年7月25日判時2220号39頁)
否定例①は、遺産分割協議によって、2名の相続人(A及びB)が建物の2分の1ずつを共有取得し、Aが建物に居住していたケースです。
このケースで裁判所は、①Aが存命中は本件建物に居住し、BはAと別居して賃借アパートに居住することが共通認識となっていたこと、②①の事情に変更が認められないこと、③Bは分割を求める理由として専門学校への入通学資金取得を挙げるものの、Bに安定した通学、就労等を期待することは困難であり、Bに堅固な意思もないこと等を考慮して、「共有取得とする際に前提とした本件建物の使用関係(被控訴人(A)が存命中本件建物を使用すること)を合理的理由なく覆すものであって、権利の濫用に当たる」としました。
(イ)否定例②(東京地判平成28年10月13日判時2359号39頁)
否定例の②は、共有となっている土地上に、区分所有建物が(横断的に)存在していたケースで、土地の共有物分割請求が認められるかが問題となったものです。
このケースで裁判所は、まず、土地の競売においては、土地上の(共有とはなっていない)各区分所有建物も併せて売却するべきであるとする主張を、各区分建物は、土地とは別個の建物であり、それぞれが単独所有に係るものであるから、土地と同時に共有物分割をすることはできないとしました。
また、詳細は複雑なため省きますが、土地のみの分割については、①土地の分割が建物に与える影響(敷地利用権の喪失による各区分建物所有への不利益)、②原告が土地の分割を求める目的及び必要性、③土地を分割することによる被告の不利益を衡量して、権利の濫用に当たると判断しました。
ウ 分割禁止の合意
共有者間で、一定期間内は、共有物を分割しない旨の契約をしていた場合には、同期間内は分割請求を行うことができません(民法256条1項但し書き)。もっとも、5年を超える期間を定めることができません。
3、共有物分割の進め方
⑴ 協議(交渉)
共有者に連絡を取り、共有者間で分割方法を協議し、話し合いによる解決を模索します。
⑵ 調停
民事調停によって解決を図ります。
第三者である調停委員が間に入ることにより、当事者間での話し合いより合意に至りやすいという特徴があります。もっとも、調停成立にはあくまでも当事者間での合意が必要となります。
⑶ 訴訟
調停を経て訴訟に至る場合と、交渉からそのまま訴訟に至る場合があります。訴訟になれば、裁判所が判決を出し、分割方法及び内容を決定します。
前述のとおり、共有物の分割は、「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき」(民法258条1項)に裁判所に請求できるものとされていますので、話し合いが可能であるにもかかわらず、いきなり訴訟提起をすることはできません。