2024/06/12 相続・遺言
遺産分割協議とは~概要と問題となりやすい点について~
本コラムでは、遺産分割について、その概要、流れ及び問題となりやすい点について、解説します。
目次
1、遺産分割とは
2、遺産分割手続きの種類
⑴遺産分割協議
⑵遺産分割調停
⑶遺産分割審判
3、遺産分割協議の流れ
⑴遺言書の有無の確認
⑵相続人の範囲の確定
⑶遺産分割協議の対象財産の確定
⑷対象財産の評価の確定
⑸特別受益・寄与分の確定
⑹分割方法の確定
1、遺産分割とは
遺産分割とは、相続の発生後、個々の相続財産について、各相続人にどのように分けるかを決定する手続です。
被相続人が死亡すると、相続が開始し(民法882条)、相続人は、被相続人の一身専属権を除き、財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
しかしながら、相続人が複数存在し、共同相続となる場合には、相続財産は、共同相続人が、各共同相続人の相続分にしたがって(898条1項、899条)、共有(遺産共有)している状態となります。
このような遺産共有の状態を解消し、個々の相続財産の取得者を決定する手続きが遺産分割です。
2、遺産分割手続きの種類
⑴ 遺産分割協議
当事者全員で協議を行い、全員の合意によって遺産分割を行うものです。
⑵ 遺産分割調停
家庭裁判所に調停を申立て、調停委員を入れたうえで、話し合いを進める手続きです。申立てをする先は、相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所又は当事者が合意で定めた家庭裁判所になります。遺産分割調停は,相続人のうちの1人もしくは何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てる必要があります。
遺産分割調停においては、調停委員が入り、当事者の話、提出された資料や場合によっては、鑑定の結果を踏まえて、解決案を提示したり、解決のために必要な助言がなされたりします。話し合いがまとまらず、調停が不成立となった場合には、審判手続きに移行します。
⑶ 遺産分割審判
遺産分割審判は、裁判官による審判により遺産分割が行われる手続きです。調停からの移行のほか、調停を経ずに遺産分割審判を申し立てることも可能です。もっとも、いきなり遺産分割審判を申し立てた場合、裁判所の判断により、調停手続きに付されることが一般的です。
3、遺産分割協議の流れ
⑴ 遺言書の有無の確認
ア 遺言書がある場合の遺産分割協議について
遺言書が存在する場合には、遺言が有効であれば、基本的にはこれに沿って相続手続きが進められることになりますが、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容と異なった遺産分割協議を行うことも可能です。
もっとも、遺言書が存在していたとしても、遺言者が遺言をするときにおいて、遺言能力を欠いていた場合(民法963条)には、当該遺言は無効となります。なお、遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力を指しますが、当該遺言の内容との関係で相対的に判断されるものと考えられています。
その為、遺産分割の前提として遺言の有無及びその有効性について確認する必要があります。
イ 遺言の種類と確認方法
遺言には、大きく分けて、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、危急時遺言、伝染病隔離者遺言、在船者遺言、船舶遭難者遺言といったものがありますが、実務上、自筆証書と公正証書遺言の方式でなされることが多いものといえます。
(ア)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、①遺言の全文、②日付、③氏名を自書し、④これに押印することがその要件となります(民法968条1項)。もっとも、自筆証書と一体のものとして相続財産目録を添付する場合には、その目録については各ページに署名押印をすれば自書によらなくとも有効となります。
自筆証書遺言については、被相続人が保管しているほか、自筆証書遺言書保管制度の利用により、法務局において保管されている場合があります。保管の有無の確認は、遺言者の死亡後、法務局への遺言書保管事実証明書の交付請求を行うことができ、遺言書の内容の確認については、遺言書情報証明書交付請求を行うことができます。
なお、自筆証書遺言は家庭裁判所における検認が必要となりますが、遺言書保管所に保管されている遺言書については、検認が不要となります。
(イ)公正証書遺言
公正証書遺言は、①証人二人以上の立会いがあること(民法969条1号)、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(民法967条2号)、③公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること(民法969条3号)、④遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと(署名ができない場合は、公証人がその事由を付記)(民法969条4号)、⑤公証人が、証書が①から④の方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し印を押すこと(民法969条5号)が要件となります。
なお、遺言者が、口がきけない者である場合、又は耳が聞こえない者である場合については、特則があります(民法969条の2)。
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国の公証役場において、遺言情報管理システムで公正証書遺言の有無及び保管公証役場を検索することができます。
遺言の閲覧や交付を請求する場合には、原則として遺言を作成した公証役場で請求する必要がありますが、作成場所以外の公証役場において、遺言の謄本を郵送で取得する手続きを取ることもできます。
⑵ 相続人の範囲の確定
ア 当事者
(ア)基本的な遺産分割協議の当事者
基本的には、下記の者が遺産分割協議の当事者となります。
・共同相続人
・包括受遺者(民法990条)
・相続分の譲受人
※特定財産の共有持分権取得者や特定受遺者は遺産分割協議の当事者とはなりません。
(イ)ケースによって遺産分割協議の当事者となる者
・当事者の意思能力や行為能力に問題がある場合
→成年後見人
・当事者が不在である場合(従来の住所又は居所を去った場合)
→不在者財産管理人
・当事者が未成年である場合
→親権者又は未成年後見人
⑶ 遺産分割協議の対象財産の確定
ア 遺産分割の対象となる財産
遺産分割の対象となる財産は、原則として、以下の条件を満たす相続財産です。
・相続開始時に存在したこと
・相続開始時に被相続人に帰属していたこと
・積極財産であること
・遺産分割時に存在すること
・未分割であること
具体的には、上記の条件を満たす相続財産である不動産、金銭、動産、有価証券、預貯金債権、債権、ゴルフ会員権、貴金属、暗号資産等が遺産分割の対象となる財産となります。
イ 遺産分割の対象とならない財産
一身専属的な権利(民法第896条ただし書き)と祭祀財産(民法第897条)については、そもそも相続財産に含まれず、遺産分割の対象財産となりません。
また、遺産に収益物件があった場合に当該物件から生じた賃料債権や、被相続人が事故等で死亡した場合の損害賠償請求債権等の金銭債権については、法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するもの(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)とされる為、遺産分割協議の対象財産とはなりません。
生命保険金についても、対象財産には含まれず、死亡退職金については、厳密には死亡退職金の規定によるということにはなりますが、多くの場合、対象財産には含まれません。
相続開始後に処分された財産についても、原則としては遺産分割の対象財産とはなりません。もっとも、例外的に共同相続人全員の同意によ って、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができます(民法906条の2第1項)。また、共同相続人の一人又は数人によって財産が処分されたときは、当該相続人については、同意がなくとも、他の共同相続人全員の同意があれば遺産とみなすことができます(民法906条の2第2項)。
なお、遺産分割の対象とならない財産についても、一部の財産については、遺産分割協議や調停において、当事者の合意があれば、これを含めて遺産分割を成立させることは可能です。
⑷ 対象財産の評価を確定
ア 評価の基準時
遺産分割協議における、遺産の価額評価時点は、遺産分割時となります。
イ 個々の財産の評価方法
(ア)不動産
ⅰ 土地
固定資産税評価額、路線価、公示地価といったものが参考にされます。不動産査定や不動産鑑定によって、評価を求めることもあります。
ⅱ 借地権
更地での評価額に路線価図に記載されている借地権割合を乗じて算出する方法が多く用いられています。
ⅲ 建物
評価額の算定方法としては、再調達原価に経年減価と観察減価を行って算出する方法が考えられます。実務上は、固定資産税評価額を参考にするか、査定を取得して、これを参考とするケースが多く見られます。
(イ)株式
ⅰ 上場株式
分割時に最も近接した日の終値によって算定されます。
ⅱ 非上場株式
事案に応じて、会社法上の株式買取請求の場面における株価算定方法(純資産法、配当還元法、収益還元法等)を用いて算定される場合や、税務上の評価基準によって算定される場合があります。
価格について当事者間で合意に至らない場合には、最終的には税理士や公認会計士等の専門家による鑑定を行う場合もあります。
(ウ)配偶者居住権
配偶者居住権の評価方法としては、下記のようなものが考えられています。
①還元方式
配偶者居住権の価額=(居住建物の賃料相当額-負担する必要費)×存続期間に対応する年金現価率
②簡易な鑑定方法
配偶者居住権の価額=(居住建物及びその敷地の価額-配偶者居住権付建物及びその負担付き敷地の所有権の価額)
負担付き建物所有権の価額
=建物の価額×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に対応する複利現価率
負担付き敷地利用権の価額
=敷地の時価×存続年数に対応する複利現価率
⑸ 特別受益・寄与分の確定
ア 特別受益
民法903条第1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」としており、相続人が、被相続人より遺贈又は一定の条件を満たす贈与を受けていた場合には、同財産の価額が相続財産の価額に加算され、当該相続人の相続分(具体的相続分)の計算に当たって同財産の価額が控除されることになります。
このような遺贈(特定財産承継遺言による取得も同様)又は一定の条件を満たす贈与のことを特別受益といいます。
このように、具体的相続分の計算においては特別受益が考慮されるため、遺産分割に当たって特別受益が問題となる場合には、特別受益の有無及び額を確定させる必要があります。
特別受益の確定に当たっては、主に生前贈与について、特別受益に当たるかといった点が問題になることが多くあります。また、生命保険や死亡退職金、土地建物の無償使用等が問題になることもあります。
詳細については、別のコラムで解説いたします。
イ 寄与分
民法904条の2第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの相続財産とみなし、 第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」としています。
この規定により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいる場合には、相続財産から当該寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産として、算定することになります。また、当該寄与をした者の相続分は、算定された相続分に寄与分を加えた額となります。
寄与分の額については、相続人の協議により合意ができればその額となります(民法第904条の2第1項)が、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、寄与をした者の請求により、家庭裁判所が、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める(民法第904条の2第1項)ことになります。
寄与分の確定に当たっては、主に、主張されている行為が①「特別の寄与」に当たるか、②被相続人の財産の維持又は増加がなされたか、③寄与行為と②の因果関係といった点が問題となります。また、④相続人以外の者(相続人の家族等)による寄与行為も寄与分と認められるかという点が問題になることもあります。
寄与分についても、詳細については、別のコラムで解説いたします。
⑹ 分割方法の確定
ア 分割方法の種類
(ア) 現物分割
現物分割とは、遺産を構成する個々の財産について、性質や形状を変えずに、物理的にこれを分け、それぞれの相続人が取得するも のとする分割方法です。
土地を分筆したうえで分割するケースなどがこの場合に当たります。
もっとも、借地権や農地等現物分割の可否が問題となるものもあります。
(イ) 代償分割
代償分割とは、相続人の一人又は複数人に、遺産を取得させる代わりに、他の相続人に対して債務を負担させる(代償金を支払わせる。)分割方法です。
「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」(家事事件手続法第195条)と定めてられており、代償分割は、「特別の事情」がある場合に、認められることになります。
特別の事情の判断に当たっては、現物分割が不可能或いは不相当な場合のほか、共同相続人間で代償分割の方法によることに争いがなく、かつ当該相続財産の評価額が相続人間で概ね一致している場合(大阪高決昭和54年3月8日家月31巻10号71頁参照)とした裁判例が参考になります。
もっとも、いずれの場合においても、遺産を取得して他の相続人に対して代償金支払債務を負う相続人において、代償金の支払い能力があることが要件とされます。
(ウ) 換価分割
換価分割とは、遺産を売却した上で、売却代金を相続人間で分配する分割方法です。
現物分割及び代償分割が困難である場合に用いられます。取得希望者がいない不動産や、未公開株式について用いられる場合があります。また、遺産の総額における不動産価額の割合が大きく、相続税の捻出ができない場合にも用いられることがあります。
任意売却の際には、売却額や売却期限、報酬・諸経費の精算を定めておくことが一般的です。
(エ) 共有分割
共有分割とは、遺産の一部又は全部を相続人間での共有とする分割方法です。
共有状態とすることは、処分や管理について、後に対立が生じるリスクもあり、紛争の火種を残す恐れがあります。
もっとも、現物分割、代償分割及び換価分割のいずれも困難な場合や、収益物件等で当事者の合意がある場合には、共有分割が選択される場合もあります。
なお、共有分割後、単独所有や共有者に対する持分売却或いは換価売却を希望する場合には、別途、共有物分割請求(民法第256条)によることとなります。
イ 分割方法の順位
協議により分割方法の合意ができれば、その合意にしたがった方法での遺産分割となりますが、合意が成立しない場合は、家庭裁判所が分割方法を決定することになります。
遺産の分割は、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」(民法第906条)ものとされており、これらの事情を考慮して、判断されることになります。
実務上は、「遺産分割の方法の選択に関する基本原則は、当事者の意向を踏まえた上での現物分割であり、それが困難な場合には、現物分割に代わる手段として、当事者が代償金の負担を了解している限りにおいて代償分割が相当であり、代償分割すら困難な場合には換価分割がされるべきである。共有とする分割方法は、(中略)換価分割さえも困難な状況にあるときに選択されるべき分割方法である。」(大阪高決平成14年6月5日家月54巻11号60頁)とする裁判例があるなど、基本的には、現物分割→代償分割→換価分割→共有分割の順で判断されています。