2024/09/27 相続・遺言
相続人の相続財産管理義務
本コラムでは、相続人による相続財産の管理義務について、簡単に説明します。
1、相続財産の管理義務
2、相続放棄後の管理(保存)義務
1、相続財産の管理義務
「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。」と規定しています。
そのため、相続人は、相続発生後、固有財産(相続人自身の財産)におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理する義務を負います。
⑴ 管理義務の程度
上述のとおり、相続人は、「固有財産におけるのと同一の注意をもって」相続財産を管理する義務を負います。「固有財産におけるのと同一の注意をもって」とは、無報酬の受寄者の注意義務である「自己の財産に対するのと同一の注意」(民法659条)と同じ意味であると解釈されています。
具体的な「管理」の内容については、保存行為・利用行為・改良行為のいずれも含むという見解と、利用・改良行為は含まないとする見解があります。
保存行為の例としては、損傷した物の修繕や、腐敗しやすいものを売却して金銭に替えるといった行為のほか、未登記不動産につき登記をすることや時効更新の措置をとることが挙げられています(潮見佳男編「新注釈民法(19)相続(1)〔第2版〕」(有斐閣、2023)591-592頁(幡野))。
⑵ 管理義務の期間
民法918条但し書きは、「ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。」と規定しており、本条に基づく管理義務は、相続の承認又は放棄の選択をするまでのものとなりますが、これによりあらゆる管理義務を負わなくなるというものではありません。
具体的には、次のとおりです。
①単純承認をした場合
単純承認をした場合には、相続財産と相続人固有の財産を区別する必要がなくなるため、相続財産についての注意義務は消滅します。もっとも、財産分離の請求(民法941条)があった場合は、管理義務が生じます。
②限定承認をした場合
限定承認をした場合には、「限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない」(民法926条1項)ことから、引き続き相続財産の管理義務を負います。
③相続放棄をした場合
相続放棄をした場合であっても、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存する必要があります(民法940条1項)。
2、相続放棄後の管理(保存)義務
民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定しています。
したがって、相続放棄をした者であっても、放棄の時点で実際に相続財産を占有していた場合には、相続人または相続財産清算人(民法952条1項)にその財産を引き渡すまでは、その財産を保存する義務を負います。
被相続人が死亡時に所有していた家に相続人が住んでいる場合等がこれに当たります。
なお、相続財産に属する財産の保存義務を負う相続放棄者が、利害関係人として、相続財産清算人の申立てを行うことは可能であると理解されており(潮見佳男編「新注釈民法(19)相続(1)〔第2版〕」(有斐閣、2023)787頁(常岡))、そのような相続放棄者が、相続清算人の申立てを行うことは可能です。