2024/09/26 相続・遺言
単純承認とみなされる「処分」について
本コラムでは、単純承認したものとみなされる「処分」について、説明します。
1、単純承認したものとみなされる「処分」
2、処分に当たるかが問題となるもの
1、単純承認したものとみなされる「処分」
民法920条は、「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」と規定しています。そのため、単純承認した相続人は、一身専属的な権利を除いて、被相続人の権利義務を包括的に承継することとなります。
民法921条1号は、単純承認したものとみなされる事由として「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」と規定しています。
ここにいう、「処分」には、売買や贈与といった法律上の処分行為だけでなく、相続財産の物理的な処分(取り壊し等)も含まれます。
以下では、処分に当たるかが問題となりやすい行為について説明します。
2、処分に当たるかが問題となるもの
⑴形見分け
被相続人の遺品等を分けるいわゆる「形見分け」について、これが処分に当たるかが問題となることがあります。
この点について、古い判例(大判昭和3年7月3日新聞2881号6頁)は、被相続人の衣類等であっても、一般経済価額を有するものは相続財産に属するとして、これの処分も本号に該当すると判断しています。
もっとも、その後の下級審裁判例の中には、相当多額にあった相続財産の内、形見分けの趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコート、椅子2脚を受領した行為について、「処分」に当たらないとしたもの(山口地徳山支判昭和40年5月13日家月18巻6号167頁)や、着古した上着とズボン各1着を元使用人に与えた行為について、一般的経済価格あるものの処分とはいえないとして「処分」に当たらないと判断したもの(東京高決昭和37年7月19日東高民報13巻7号117頁)があります。
学説においては、経済的重要性を欠く「形見分け」については、民法921条1号にいう「処分」に該当しないとする見解が多数であると思われます。
⑵葬儀費用等の支出
相続人の葬儀費用や墓石等の費用を相続人の財産から支出した場合に、民法921条1号の「処分」に当たるかが問題となる場合があります。
この点につき、裁判例(大阪高決平成14年7月3日家月55巻1号82頁)においては、
「葬儀は,人生最後の儀式として執り行われるものであり,社会的儀式として必要性が高いものである。そして,その時期を予想することは困難であり,葬儀を執り行うためには,必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば,被相続人に相続財産があるときは,それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また,相続財産があるにもかかわらず,これを使用することが許されず,相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば,むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。したがって,相続財産から葬儀費用を支出する行為は,法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。」
と述べ、相続財産からの葬儀費用の支出については、「処分」に当たらないと判断されています。
また、同裁判例は、仏壇や墓石についても、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるとしつつも、仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であること、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に,遺族がこれを利用することも自然な行動であること、購入した仏壇及び墓石は,いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できないことといった事情から、「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないと判断しています。
⑶債権の行使
被相続人が有しており、相続財産に含まれる債権を行使することが相続財産の処分(民法921条1号)に該当するかが問題となる場合があります。
判例(最判昭和37年6月21日家月14巻10号100頁)は、被相続人が有していた売掛金債権を、被相続人の死亡後、相続放棄前に相続人が行使し、これを受領した事案で、
「債権を取立てて、これを収受領得する行為は民法九二一条一号本文にいわゆる相続財産の一部を処分した場合に該当するものと解するを相当とする」
として、「処分」(民法921条1号)に当たるとしています。
もっとも、債権者に請求・催告することについては、時効中断効を有し保存行為に該当すると考えられることから、処分に該当しないと解すべきであるとする見解(松原正明『判例先例相続法Ⅲ(全訂第2版)』(日本加除出版株式会社 2023)134頁)もあります。
同見解は、債務者からの弁済の受領についても、処分行為に当たらないとすべきであるとし、弁済を受けた金銭を自己のものとした場合に、民法921条3号の問題になるとしています。