2024/09/23 不動産
一時使用目的の借地権に関する裁判例
本コラムでは、一時使用目的の借地権について争われた裁判例を紹介します。
1、一時使用目的の借地権について
2、一時使用目的の借地権の判断基準
3、裁判例の紹介
⑴肯定した裁判例
⑵否定した裁判例
1、一時使用目的の借地権について
借地借家法25条は、「第3条から第8条まで、第13条、第17条、第18条及び第22条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。」と規定しており、臨時設備の設置その他一時使用のための借地権であることが明らかである場合は、存続期間に関する規定や、更新に関する規定、建物買取請求権に関する規定等、一部の規定が適用されないことになります。
2、一時使用目的の借地権の判断基準
一時使用目的の借地権が認められるには、「一時使用のための借地権であることが明らかである場合」という要件を満たす必要があり、判例(最判昭和45年7月21日民集24巻7号1091頁)はこの点について、
「対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要する」としています。
以下では、個別の裁判例における判断および考慮された事由について見ていきます。
3、裁判例の紹介
⑴肯定した例
・最判昭和37年2月6日民集16巻2号233頁
ア 事案の概要
賃貸人の長男が医学を勉強中であり、卒業後、対象となった土地で開業することを予定していたことから、賃貸借契約において借地期間を医業開始確定の時までとするため、契約にあたり、地上に建築できる建物を戦災復旧用建坪15坪のバラツク住宅に限定したうえで、一時使用を条件とすることが契約書に明記されていた事案です。
イ 裁判所の判断
最高裁は、上記事実を前提に、「たとえ右医家開業の時期が明確に定つて居らなかつたため、一応、賃貸借期間を三年と定め、その後医業開始に至らなかつたので、その期間を更新し或はその間に賃料を増額した事迹があつたとしても、これを一時使用のためのものとなすに妨げない」として、一時使用目的の借地権であると認めました。
⑵否定した例
・東京高判昭和61年10月30日判タ640号179頁
ア 事案の概要
賃借人(法人)が、賃貸人が所有する土地を賃借し、整地をしたうえ、右土地上に軽量鉄骨造2階建の建物1棟を建て、法人代表者及びその家族のほか十数名の従業員が同建物を住居として使用していたところ、相続により賃貸人の地位を承継した者から、一時使用目的の賃貸借契約であるとして、土地の明け渡しを求められた事案です。
契約書には、「土地一時使用契約書」という標題が付けられており、「土地を一時使用させるものであるという条項や、本件契約が借地法第九条による一時使用のものであることを認めるなどの条項の記載がありました。
イ 裁判所の判断
裁判所は、まず「賃貸借契約が一時使用を目的として締結されたものであるかどうかは、契約書の字句、内容だけで決められるものではなく、契約書の作成を含めての契約締結に至る経緯、地上建物の使用目的、その規模構造、契約内容の変更の有無等の諸事情を考慮して判断すベき」と述べ、契約書の文言からのみ一時使用目的のものであるか否かが判断されるものではないことを明らかにしました。
その上で、下記のような事実を前提に、賃借人は契約当初から短期間に限って本件土地を借り受ける意思ではなく、賃貸人も早期に本件土地の返還を受けるべき予定も必要もなかったこと、本件建物の建築及び土地の使用状況とこれに対する賃貸人の態度等を考慮したうえで、一時使用目的の賃貸借であることが明らかであるとは認められないと判断しました。
・賃貸借の経緯(元々賃借人は別の土地を借り、そこに法人代表者及び家族、従業員の居宅兼宿舎用の建物を建てていたが、手狭となったためにほかに土地を求めたこと)
・契約締結後直ちに整地のうえ、本件土地に軽量鉄骨造二階建の建物一棟を建てたこと
・同建物に法人代表者及びその家族のほか十数名の従業員が居住したこと
・賃貸人は建物の建築及びその後の使用状況を知りながら、異議や苦情を述べなかったこと
・一年契約が二回更新されたが、その際賃貸人から本件土地返還の申入れやこれを匂わす発言はなかつたこと