不動産

2024/09/15 不動産

借地借家法の適用のある賃貸借契約と隣接地の賃貸借契約について

 

 本コラムでは、借地借家法の適用のある賃貸借契約が存在し、賃借人が賃貸人から隣接地も駐車場等のために借りているようなケースで、隣地の賃貸借契約につき借地借家法の適用が認められるかといった点について争われた裁判例を紹介します。

 

1、土地の賃貸借と借地借家法の適用

2、裁判例

3、隣接地の賃貸借契約が保護される場合

 

1、土地の賃貸借と借地借家法の適用

 借地借家法第1条は、「建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。」と規定しており、同法21号は、借地権の定義について、「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」と規定しています。

 このように、土地の賃貸借について、借地借家法の適用対象となるには、「建物の所有を目的とする」ものであることが要件となります。

 建物所有目的で土地の賃貸借契約を結んだ場合には、同土地については、借地借家法の適用がありますが、隣接する別の土地を同建物の駐車場等として賃借していた場合に、(単独では借地借家法の適用がないと思われる)隣接地の賃貸借契約につき借地借家法の適用の有無が問題となることがあります。

 

2、裁判例

⑴肯定した裁判例

①札幌地判昭和2824日下民集4巻2号163頁

ア 事案の概要

 被告が、原告から木工場経営のために木工場およびその附属住宅、倉庫等の建物を所有する目的で土地を賃借していたところ、その一部については木材置き場用とされていた事案で、借地法の適用の有無及び範囲が問題となった事案です。

 

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「借地法にいう「建物所有の目的」とは、土地賃借の主たる目的が建物の所有にある場合をいうのであつて、しかもその主たる目的が建物所有にある場合であつても、その目的のおよぶ範囲は自ら限度があるものでそれは建物の所有に通常必要な範囲でなければならない。」として、建物所有目的のおよぶ範囲に限度があることを示しました。

 そして、「本件賃貸借契約は賃借地全域を密接不可分な一体として、製材事業経営のため木工場およびその附属住宅、倉庫等の建築用地とする目的で締結されたものでその主たる目的は疑いもなく木工場なる建物の所有にある」としたうえで、木工場の存立とその利用には原木を貯蔵する土場や製材の立場が必要であり本件係争地がその大部分を占めていること等を考慮し、全域が建物所有の目的をもってなされたものであると判断し、借地法の適用を認めました。

 

ウ 解説

 本事案は、「隣地」における借地借家法の適用が問題となったものではありませんが、借地権の範囲(建物所有目的の及ぶ範囲)について判断した裁判例として参考になります。

 

②東京地判平成20324

ア 事案の概要

 信用金庫の支店が店舗用駐車場として使用していた土地の賃貸借契約について、

①「前賃借人有していた本件(一)土地の賃借権は,普通建物所有を目的とする借地権であったところ,原告は,この借地権を被告の承諾のもとで譲り受けて,被告との間で,駐車場用の普通建物所有を目的として,本件契約を締結したこと」

②「本件(一)土地(駐車場部分)の賃借権は,(二)土地の賃借権(支店の店舗用の借地権)と不可分一体の関係で利用することが目的とされ,実際に両土地を一体として利用し,両土地の賃料についても借地権利用の対価として同様に支払い,値上げにも応じてきたのであるから,両者の法的性格は一体として定められるべきであること」

等を理由として借地借家法の適用があると主張した事案です。

 

イ 裁判所の判断

 裁判所は、原告の認識について、

 前賃借人が有していた本件(一)土地の賃借権について,前賃借人と原告は,これを借地権であると認識していたものと認められること、原告と前賃借人の間で本件(一)土地の賃借権の譲渡に際して授受された1339万2000円(坪当たり28万8000円)という金額は,借地権であることに争いのない(二)土地の賃借権の権利金と同等のものであること等の事情から、原告は本件契約に基づく本件(一)土地の賃借権が借地権であることを前提としていたものとみるのが自然であると述べました。

 また、被告についても、

 被告と前賃借人との間の土地賃貸借契約についても契約書が取り交わされており,そこには,全賃借人及び原告が借地権であると認識するような内容が記載されていたものと推認できることや、被告が、前賃借人から原告に借地権を譲渡することを承諾する旨を記載した承諾書を作成していることといった事情から、本件(一)土地の賃借権が借地権であると認識していたと認めるのが相当であるとし、

「原告の認識と被告の認識は合致しているのであって,本件契約に基づく本件(一)土地の賃借権は借地権であると認めるのが相当」であると判断しました。

 

ウ 解説

 本事案では、原告被告の両当事者の認識、すなわち双方ともに借地権であると認識していたことを賃借権譲渡の経緯や契約書の記載、その後の経緯といった事情から認定し、借地権の存在を認めています。

 

⑵否定した裁判例

①東京地判平成2531日判時136759

ア 事案の概要

 被告が、別の者から賃借した土地に事務所用建物、作業所用建物及び倉庫を建築しており、その事業のための建築資材や機材の置場及び工事用車両等の駐車場として原告から本件土地を賃借した事案で、被告が「これらの土地は一体として利用されているのであるから、建物所有を目的とするものである」と主張した事案です。

 

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「借地法一条にいわゆる「建物所有ヲ目的トスル」賃借権とは、土地の賃借の主たる目的が当該土地上に建物を所有することにあるものをいうのであり、ある賃貸借契約が建物所有を目的とするものであるというためには、例えば、建物の敷地の用地とそれに至る通路用地について各別に締結された同一当事者間の二個以上の賃貸借契約のように、本来一個の賃貸借契約と解すべき場合又はそれに準じて取り扱うべき場合にあってはともかく、それが別個、独立の賃貸借契約である限りにおいては、当該賃貸借契約の主たる目的が当該賃貸借契約の目的たる土地上に建物を所有することにあるのでなければならないのであって、自己の所有地上又は他の賃貸日契約に基づく賃借地上に建築された建物の利用又はその便益のために締結された他の土地についての賃貸借契約までが建物所有を目的とする賃貸借契約であると解することは、著しく借地法の目的を逸脱するものであり、被告の右主張は、到底採用することができない。」として、借地法の適用を否定しました。

 

 

3、隣接地の賃貸借契約が保護される場合

 借地借家法の適用が認められないと判断された場合であっても、隣接地の利用が借地借家法の適用がある土地の利用と不可分一体のものであり、契約全体から、借地借家法の適用がある土地の契約が存続する限り、隣接地の契約も存続するとの合意がなされたと捉えられる場合もあるものと思われます。

 この点について、タクシーの営業所と隣接する駐車場の賃貸借契約について、「本件駐車場部分についての本件賃貸借契約は、原、被告において自認しているように建物所有を目的とするものではないものの、被告の本件土地全体の利用形態列タクシー営業のための事務所、車庫、駐車場等としてのものであって、事務所等が存在する本件敷地部分と車庫、駐車場等が存在する本件駐車場部分が、利用面においては不可分一体のものであることからすれば、原、被告において右各貸借契約を締結するに当たっては、右のような利用形態に合致した趣旨の合意が成立したものとみるべきであるから、本件賃貸借契約の期間については、本件敷地部分についての賃貸借契約の期間が存続する限り、その期間内は、本件賃貸借契約も継続させるとの合意があったものと認めるのが相当である。」とした裁判例(東京地判平成31128日判時143097頁)が参考になります。

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