相続・遺言

2024/09/13 相続・遺言

遺産総額に比して高額な死亡保険金について、特別受益に準じる持ち戻しが否定された裁判例の紹介

 

  本コラムでは、遺産総額に比して高額な死亡保険金について、特別受益に準じる持ち戻しが否定された近時の裁判例(広島高決令和4年2月25日判タ1504115頁)を紹介します。

 

1、遺産分割における生命保険金の扱い

2、裁判例の紹介

⑴事案の概要

⑵裁判所の判断

 

 

1、遺産分割における生命保険金の扱い

 生命保険金は、保険契約により保険金受取人とされた者の固有の財産となるため、原則として遺産分割の対象財産にはなりません。

 また、特別受益としての持戻しについても、判例(最決平成161029日民集58巻7号1979頁)は、「養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。」として、原則として特別受益に当たらないとしています。

 もっとも、同判例は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」として、例外的に死亡保険金請求権が特別受益に準じて持ち戻しの対象となる場合があることを示しています。

 また、特段の事情の有無については、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」としており、保険金の額が、遺産の総額と同額であった場合や、遺産の総額の約6割であった事案で、持戻しを認めた裁判例があります。

 本コラムで紹介する事案は、死亡保険金の額が、遺産の約2.7倍であったという事案でしたが、持戻しを否定したという点で特徴があります。

 

2、裁判例

⑴事案の概要

 被相続人の妻である相手方が受領する死亡保険金が持戻しの対象となるかが問題となった事案です。

 死亡保険金の額は、2100万円、相続開始時の遺産の評価額は772万3699円、遺産分割の対象財産の評価額は459万665円というものでした。

 

⑵裁判所の判断

 裁判所は、上記の金額を認定したうえで、「遺産総額に対する割合は非常に大きいといわざるを得ない」と述べました。

 もっとも、本件死亡保険金の額が、一般的な夫婦における夫を被保険者とする生命保険金の額と比較して,さほど高額なものとはいえないこと、被相続人と相手方は,婚姻期間約20年,婚姻前を含めた同居期間約30年の夫婦であり、その間,相手方は一貫して専業主婦で,子がなく,被相続人の収入以外に収入を得る手段を得ていなかったこと、本件死亡保険金の大部分を占める本件保険1について,相手方との婚姻を機に死亡保険金の受取人が相手方に変更されるとともに死亡保険金の金額を減額変更し,被相続人の手取り月額20万円ないし40万円の給与収入から保険料として過大でない額(本件保険1及び本件保険2の合計で約1万4000円)を毎月払い込んでいったことを考慮した上で、

本件死亡保険金は,被相続人の死後,妻である相手方の生活を保障する趣旨のものであったと認められる」と判断しました。

 さらに、その上で、相手方が現在借家住まいであり、本件死亡保険金により生活を保障すべき期間が相当長期間にわたることが見込まれる一方で、抗告人(他の相続人)は,被相続人と長年別居し,生計を別にする母親であり,被相続人の父(抗告人の夫)の遺産であった不動産に長女及び二女と共に暮らしていることなどの事情を併せて考慮したうえで、特別の事情が認められないとして、持戻しの対象と認めませんでした。

 

⑶解説

 本事案では、生命保険金の額が、相続開始時の遺産の評価額の約2.7倍であり、他の持戻しを認めた裁判例に比しても割合が高いものでした。

 仮に、生命保険金の持戻しが純粋に割合のみで判断されるものだとすれば、持戻しが認められるようにも思えますが、裁判所は、生命保険金自体の額の高さ、被相続人と保険金受取人の関係、保険契約の経緯、保険金受取人の生活状況、保険金受取人の今後の生活保障、他の相続人との関係といった事情を総合的に考慮したうえで、特別の事情が認められないとして持戻しを否定しています。

 持戻しの判断に当たっては、生命保険金の遺産総額に占める割合のみではなく、上記判例(最決平成161029日民集58巻7号1979頁)も示していた、このような事情が総合的に考慮され判断されるものであることを再確認させる裁判例であり、参考になります。

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