相続・遺言

2024/09/03 相続・遺言

遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(民法906条の2)

 

 本コラムでは、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(民法906条の2)について説明します。

 

1、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲に関する規定

2、上記規定の意味

3、共同相続人以外の第三者による処分の場合

4、遺産のすべてが処分された場合

 

1、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲に関する規定

 民法906条の2第1項は、「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」と定めています。

 したがって、遺産分割の前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意があれば、これを遺産として存在するものとみなして遺産分割協議を行うことができます。

 また、民法906条の2第2項は、「前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。」と定めており、共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した者である場合には、当該共同相続人からの同意は不要であり、その他の相続人全員の同意が得られれば、これを遺産として存在するものとみなして遺産分割協議を行うことができます。

 

2、上記規定の意味

 遺産分割は、遺産分割の時に存在する財産を分割するという前提があるため、遺産分割の前に相続財産が処分された場合には、基本的に処分された財産は遺産分割の対象から除かれていました。

 また、処分によって利益を得た相続人がいる場合であっても、遺産分割においては特段考慮しないという取り扱いがされており、処分した相続人と他の相続人との間で不公平な帰結を生じさせることがありました。

 上記規定(民法906条の2)は、このように遺産分割の前に相続財産を処分した相続人が利益を得、他の相続人が不利益を被ることがないよう、相続法改正によって新たに設けられた規定です。

 

3、共同相続人以外の第三者による処分の場合

 遺産の分割前の遺産に属する財産の処分が、共同相続人以外の第三者によって行われた場合であっても、1項の適用はあるものと考えられます。第三者が財産を処分した場合であっても、第三者に対する損害賠償請求権や処分された財産に関する保険金請求権を遺産分割の対象とするために、全共同相続人の同意により処分された財産を遺産分割の対象とすることも考えられるためです(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019 商事法務)98頁)。

 もっとも、2項については、共同相続人が処分を行った場合の規定であるため、適用されず、第三者による処分の場合には、共同相続人全員の同意を要することとなります。

 

4、遺産に属する財産が全て処分された場合

 遺産分割が、相続開始時に存在し、かつ、遺産分割時にも存在する相続財産を分割する手続きであることからすると、遺産分割の前に遺産に属する財産の全てが処分され、遺産分割の対象となる財産が存在しない場合には、そもそも遺産分割を行うことができないため、そのような場合は上記規定は適用の対象とならないと考えられています(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(2019 商事法務)97頁)。

 もっとも、これに対し、遺産分割時に存在している財産が処分されたのであれば、相続人の一人がその全部を処分した場合も、上記規定の適用対象となるとする見解もあります(潮見佳男『詳解相続法(第2版)』(2023、弘文堂)322頁)。

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