2024/08/27 離婚・男女問題
婚姻費用の増減額請求が認められる場合について
本コラムでは、婚姻費用の増減額請求が認められる場合について、説明します。
1、婚姻費用の増減額請求が認められる場合とは
2、裁判例の紹介
1、婚姻費用の増減額請求が認められる場合とは
民法760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めており、婚姻費用の分担額は「資産、収入その他一切の事情」が考慮されて決定されます。
もっとも、その後、婚姻費用分担額の決定時点から収入状況や扶養状況が変化した場合には、婚姻費用分担額の増減額が認められる場合があります。例えば、婚姻費用分担額決定後、予期せぬリストラによって、大幅に収入が減少した場合や等が挙げられます。
婚姻費用分担額の変更が認められるには、具体的には、下記の4つの要件を満たす場合に認められるものと考えられています。
①合意や調停や審判の前提となっていた客観的事情が変化したこと
②事情変更を当事者が予見し又は予見できたものではないこと
③事情変更が当事者の責めに帰すべきでない事由により生じたこと
④当初の決定額での履行を強制することが著しく公平に反するものであること
なお、裁判例においては、上記4つの要件を個別に判断するというよりは、総合的に判断しているものと思われます。
2、裁判例
⑴事情変更を肯定した裁判例
・横浜家裁小田原支審令和4年12月2日
ア 事案の概要
婚姻費用分担金が月額11万円と決定されていたところ、義務者の側から、営業等所得がなくなり年金収入のみになって収入が減少したとして婚姻費用分担額の減額が求められた事案です。
イ 裁判所の判断
裁判所は、営業等所得がなくなり、前記年金収入のみとなったことが認められるから、申立人の収入状況に関する事情に変更が生じていることは明らかであり、前件審判の内容は実情に適合せず相当性を欠くに至ったといえるから、事情の変更があったものとして、1か月当たり7万円に変更する審判を出しました。
また、抗告審は(東京高決令和5年6月8日判タ1518号125頁)においても、未払い額等の調整により、減額変更の時期及び額に一部、変更があったものの、一定期間以降は、1か月あたり7万円に減額するとの判断がなされました。
⑵事情変更を否定した裁判例
・東京高決平成30年11月16日
ア 事案の概要
妻と夫の間で、婚姻費用を月額20万円とする合意書面が作成されていた事案です。
夫の側には、合意の翌月、給与が減額されているという事情があり、減額が主張されました。
イ 裁判所の判断
原審(東京家審平成30年5月31日)は、夫において、給与の減額の程度を具体的に予見することは困難であったというべきであるとして、合意がなされた日の属する月の翌月以降の分担額については、合意に拘束されないとして、標準算定方式に基づき、翌月以降の婚姻費用を16万円としました。
これに対して、抗告審は、夫が合意以前に事件を起こし逮捕拘留されており、夫において職種の変更による減収も予想し得たこと、夫は妻に告訴を取り下げてもらうことを第一の目的として婚姻費用の額を合意したものであり、また、その際、夫は、事件を起こしたことにより減収を伴う不利益な措置を受ける可能性を認識し得たこと、減額幅が12パーセント余りにとどまり、合意の当時,予想し得た勤務先からの不利益の措置としての減収の予想の範囲内を超えるほどのものでないことを考慮したうえで、合意を変更するほどの事情が生じたものではないとして、月額20万円の婚姻費用の支払い義務を認めました。
ウ 解説
本裁判例では、合意後の事情変更(義務者給与の減収)による、婚姻費用減額の有無が争われました。原審が、給与の減額の程度を具体的に予見することは困難であるとして、事情変更を認めたのに対し、抗告審は、減収が予想し得たものであること、減額幅自体も予想の範囲内を超えるものでないこと等を理由に、事情変更を認めませんでした。