離婚・男女問題

2024/08/16 離婚・男女問題

不貞慰謝料請求と婚姻関係の破綻~裁判例の紹介~

 

 本コラムでは、不貞(不倫)慰謝料請求において、婚姻関係の破綻が主張された裁判例を紹介します。

 

1、不貞慰謝料請求と婚姻関係の破綻

2、裁判例の紹介

 

1、不貞慰謝料請求と婚姻関係の破綻

 配偶者のある者が、配偶者以外の者と性的関係を結んだ場合、性的関係を結んだ配偶者と第三者に対して、民法上の不法行為として、慰謝料の請求が認められる場合があります。不倫慰謝料、不貞慰謝料といわれるものです。

 不倫によって、不貞慰謝料が認められる(不倫が不法行為を構成する)根拠としては、不倫が婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるからと考えられています。

 したがって、そもそも不倫の時点で婚姻共同生活が破綻しているような場合には、これの維持という権利又は法的保護に値する状況にはなく、不法行為を構成しないことになります。

 判例(最判平成8326日民集50巻4号993頁)においても、「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。」とされています。

 以下では、婚姻関係の破綻が争われた裁判例を紹介します。

 

2、裁判例の紹介

⑴婚姻関係の破綻を認めなかった裁判例

①東京地判令和4年1月17

ア 事案の概要

・夫による不貞

・夫は、不貞開始の5年ほど前から,複数回にわたり、妻に対し,離婚を考えている旨を伝えていた

・夫は、婚姻後間もない時期に養子縁組をした妻の子であるAと、不貞開始の1年ほど前に離縁した

・夫は、不貞開始の約10か月前に、妻に対し、改めて離婚の希望を伝え,妻も夫と共に離婚届の用紙を入手し,これに署名した

・妻と夫は,不貞開始の約1か月から別居しており、当該別居に当たり、夫は妻に自宅の鍵を交付し、妻がこれを受領した上、妻が夫へのメモに感謝と別れの言葉を記載した

イ 裁判所の判断

 裁判所は、夫が、従前から妻との離婚を希望し、妻もこれに応じて離婚届を作成したことや別居し妻もこれを受け入れる行動をしていたといった上記の事情から、婚姻関係は、本件不貞の開始前に,相当程度破綻の危機に瀕していたといえると述べました。

 しかしながら、離婚届けを作成した後も、同居して夫の収入により共同で生活し,日常的に連絡を取り合い,旅行や食事に出かけていたことや、本件不貞が開始された時点では、別居を開始してから1か月程度しか経過していなかったこと等に照らすと、共同生活の継続に対する妻の期待が完全に消滅したとまではいえないとし、その他の事情も考慮の上、不貞行為開始の時点で婚姻関係が完全に破綻していたとまでは認められないと判断しました。

 

②東京地判平成30226

ア 事案の概要

・夫による不貞

・不貞(夫と不貞相手の同居開始)の1年以上前に、妻がその当時の自宅を出て,同自宅の近傍に住居を借りることによって別居を開始した

・夫は、その約13か月後、転勤となった

・転勤後、夫は知り合った不貞相手を転勤先での住居に呼び寄せてと、同居した

・夫は、転勤の3年後、再度転勤となり、自宅に帰宅した,

・夫は、上記いずれの期間をも通して妻に対し、婚姻費用の支払いを行った

・妻は、転勤から帰ってきた半年後、夫を相手方として,夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てた

イ 裁判所の判断

 裁判所は、婚姻関係が一定程度冷却していたとしつつも、「婚姻費用の支払がなされていることに加え、Aの単身赴任の開始時点においては、原告(妻)とA(夫)の婚姻関係が20年を越える一方、別居期間は1年程度であったことに照らすと、原告とAとの婚姻関係が、Aと被告との共同生活が開始した時点において破綻していたとまではいうことができ」ないとして、婚姻関係の破綻を否定しました。

 

⑵婚姻関係の破綻を認めた裁判例

①東京地判令和元年919

ア 事案の概要

・夫による不貞

・不貞行為の約21か月前に別居

・別居する以前から相当程度平穏を欠いていた

・別居は夫婦間の不和を原因とするものであった

・別居後半年程度たった時点で行われた夫婦間の協議は、婚姻関係を修復するためではなく、離婚の条件を話し合うためのものであった

・妻が同協議を実質的に拒絶したため、離婚に至ることなく別居を継続した

・同協議後、不貞行為までの間に,別居解消に向けた協議ないし試みは一度たりとも行われなかった

・不貞行為の時点で婚姻期間17年以上

イ 裁判所の判断

 裁判所は、上記の事実を考慮したうえで、不貞行為の時点において、婚姻関係が破綻していたことは明らかであるとして、婚姻関係の破綻を認めました。

 

②東京地判平成312月7日

ア 事案の概要

・妻による不貞

・別居は不貞行為の後

・妻による不貞行為の前に夫による不貞行為

・婚姻期間は12年以上

イ 裁判所の判断

 裁判所は、夫がほかの女性と、それぞれを「パパ」「ママ」と呼び合い、避妊をせずに性交渉をし,子をもうけようとしていたものと理解し得るやりとりをしていること、妻との婚姻関係が破綻していることを自認する趣旨と理解することができるメッセージや、妻と離婚して当該女性と婚姻することを望んでいるという趣旨と理解することができるメッセージを送信しているといった事実を認定しました。

 その上で、夫の供述態度や、現に夫が当該女性と同居するに至っていること等を考慮して、夫は遅くとも妻による不貞行為の前に当該女性と不貞関係にあったと認められるとともに、婚姻関係は,同日までには破綻していたとして、婚姻関係の破綻を認めました。

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