2024/08/15 離婚・男女問題
不貞慰謝料請求における婚姻関係の破綻とは
本コラムでは、不貞慰謝料の請求に当たって、問題となることが多くみられる「婚姻関係の破綻」について説明します。
1、はじめに
2、婚姻関係破綻の抗弁とは
3、婚姻関係の破綻が認められたケース
4、考慮される事由
5、おわりに
1、はじめに
配偶者のある者が、配偶者以外の者と性的関係を結んだ場合、性的関係を結んだ配偶者と第三者に対して、民法上の不法行為として、慰謝料の請求が認められる場合があります。不倫慰謝料、不貞慰謝料といわれるものです。
もっとも、場合によっては、慰謝料の請求が認められないこともあります。その一つが、夫婦間の婚姻関係が破綻していた場合であり、そのような主張を実務上は婚姻関係破綻の抗弁と呼んでいます。
婚姻関係破綻の抗弁は、不貞慰謝料の請求に対して、多く見られる反論であり、本コラムでは、婚姻関係破綻の抗弁が認められる場合と、その考慮事由について簡単に説明します。
2、婚姻関係破綻の抗弁とは
不倫によって、不貞慰謝料が認められる(不法行為を構成する)根拠としては、不倫が婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるからと考えられています。
したがって、そもそも婚姻共同生活が破綻しているような場合には、これの維持という権利又は法的保護に値する状況にはなく、不法行為を構成しないことになります。
この点について判例(最判平成8年3月26日民集50巻4号993頁)は、「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。」と述べ、その理由としては、
「丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」としています。
このように、婚姻関係が破綻していた場合には、不貞相手である第三者に対する慰謝料請求は認められません。
3、婚姻関係の破綻の判断基準
夫婦関係がいかなる状態にあれば「婚姻関係の破綻」と認められるかについては、離婚原因としての「破綻」について、「夫婦の一方又は双方が既に右の意思(筆者注:永続的な精神的・肉体的結合を目的として共同生活を営む意思)を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合」と述べた判例(最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)が参考になります。もっとも、不法行為の成否の判断における婚姻関係の破綻と離婚事由としてのそれが同一なものであるかについては、議論があるところです。
不貞行為の成否における婚姻関係の破綻について判断した裁判例の中では、「婚姻関係が破綻しているというのは,民法770条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事情がある」と評価できるほどに,婚姻関係が完全に復元の見込みのない状況に立ち入っていることを指すものと解するのが相当」としたもの(東京地判平成22年9月9日)が参考になります。
いずれにしても、単なる不仲で認められるものではなく、夫婦としての共同生活の実体を欠き、婚姻関係が回復する見込みのない状況であることが求められます。
なお、単に一方の配偶者が共同生活を営む意思を喪失したとしても、それのみによって、婚姻関係の破綻が認められるものではありません。
4、考慮される事由
婚姻関係が破綻しているか否かの判断に当たっては、別居の有無、別居の期間、家庭での会話の有無や協力関係の有無及びこれらの程度(婚姻生活における両当事者の態度)、行為(DV・モラハラの有無)、子の有無及び年齢、離婚への話し合いの状況、婚姻継続に意思といった一切の事情を考慮して判断されます。
5、おわりに
不貞慰謝料の請求において、婚姻関係の破綻が主張されることは、実務上多く見られますが、そのハードルは高いものとなっています。婚姻関係の破綻の判断に当たっては、いずれの側であっても適切な証拠に基づいて主張を組み立てる必要があるため、一度弁護士に相談されることをお勧めします。