相続・遺言

2024/08/04 相続・遺言

特別の方式による遺言

 

 本コラムでは、特別の方式による遺言について、種類とその概要を説明します。

 

1、死亡危急時遺言

2、伝染病隔離者遺言

3、在船者遺言

4、船舶遭難者遺言

5、特別の方式による遺言の効力

 

1、死亡危急時遺言

⑴ 死亡危急時遺言の要件

 民法976条1項は、「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。」と定めており、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫っている者には、特別の方式による遺言が認められています。

 死亡危急時遺言という言い方をしますが、これは以下のような要件の下に認められます(死亡危急時遺言の詳細については、別のコラムをご参照ください。)。

・死亡の危急に迫った者による遺言

・証人三人以上の立会い

・証人の一人に対する遺言の趣旨の口授

・口授を受けた者による筆記、読み聞かせ、閲覧

・各証人による承認、署名、押印

 また、口がきけない者が死亡危急時遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、口授に代えなければならない(民法9762項)とされ、遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、読み聞かせに代えることができます(民法9763項)。

 死亡危急時遺言は、「遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。」(民法976条4項)とされており、遺言の日から20日以内に、証人の一人又は利害関係人が家庭裁判所に請求して確認を得なければ、効力を生じません。

 また、家庭裁判所の確認については、「遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」(民法9765項)と規定されています。

 

2、伝染病隔離者遺言

 「伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。」(民法977条)と規定されており、伝染病のために行政処分によって交通を断たれた場所にいる者は、警察官一人と承認一人以上の立ち合いで、遺言書を作成することができるものとされています。

 条文上は、伝染病のために行政処分によって交通を断たれた者に限定されているようにも読めますが、刑務所内にいる者、地震や洪水などにより交通が遮断されている場合にも適用の対象となると考えられています(松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール相続(第2版)』227228頁〔床谷文雄〕(日本評論社、2023))。

 自筆である必要はありません。

 「第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。」(民法980条)とされており、この方式による場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は各自遺言書に署名、押印をする必要があります。

 また、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない(民法981条)とされています。

 

3、在船者遺言

 「船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。」(民法982条)とされています。

 船舶の中におり、公正証書遺言等の普通の方式による遺言が困難な状況にある者に認められている遺言です。

在船者による遺言は、船長又は事務員一人と証人二人以上の立会いによって作成することができます。

伝染病隔離者遺言同様、遺言は自筆である必要はありません。

遺言者、筆者、立会人及び証人は各自遺言書に署名、押印をする必要があること(民法980条)、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない(民法981条)ことについても伝染病隔離者遺言と同様です。

 

4、船舶遭難者遺言

 「船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。」(民法9791項)とされています。

 船舶が遭難し、死亡の危急に迫った在船中の者に認められる遺言の方式です。口頭で遺言をすることができる点に特徴があります。

 口がきけない者が船舶遭難者遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければなりません(民法979条2項)。

 また、船舶遭難者遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じません(民法979条3項)。

 死亡危急時遺言と同様、家庭裁判所の確認については、「遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」(民法9794項、976条5項)ものとされます。

 署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない(民法981条)ことについては、伝染病隔離者遺言及び在船者遺言と同様です。

 

5、特別の方式による遺言の効力

 特別の方式による遺言(死亡危急時遺言、伝染病隔離者遺言、在船者遺言、船舶遭難者遺言)については、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六ヶ月間生存するときは、その効力を生じません(民法983条)。

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