2024/07/30 相続・遺言
自筆証書遺言における加除その他の変更について
本コラムでは、自筆証書遺言における加除その他の変更について、簡単に説明します。
なお、遺言の加除その他の変更は慎重に行う必要がありますので、実際に加除その他の変更をされる場合には、個別に弁護士に相談されることをお勧めします。
1、加除その他の変更
⑴加除その他の変更の方式
⑵方式を充たさない場合
⑶明らかな誤記である場合
2、自書によらない相続財産目録の加除その他の変更方法
1、加除その他の変更方法
⑴加除その他の変更の方式
自筆証書遺言において、後から訂正や加筆等の必要が生じた或いはこれに気づいた場合に、遺言書をすべて作成し直すものとすると、遺言者への負担が大きいものとなります。
他方で、簡易な方法での訂正や加筆を認めると、後から偽造される恐れ高くなります。
そこで、民法は、加除その他の変更について、「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」(民法968条3項)と方式を定めました。
①遺言者が加除その他の変更の場所を指示し、
②これを変更した旨を付記し
③特にこれに署名し、
④変更の場所に印を押す
ことが、加除その他の変更の要件となります。
具体的には、加除その他の変更の場所を記載したうえで(①)、これを変更した旨(削除や追加、改める場合はその文言)を付記し(②)、その(①及び②の)記載がされた箇所に署名をする(③)必要があります。その上で、「変更場所に」押印をする必要があります(④)。
通常の文書の訂正の際は、訂正する文言を二重線で消したうえで、横に訂正後の文言を記載し、押印するといった方法が取られることがありますが、このような方法とは異なった方式が求められていることに注意が必要です。
⑵方式を充たさない場合について
方式を充たさない(方式に違背した)訂正が行われた場合に、訂正は無効であるとしても、元の遺言は有効なのか、元の遺言についても全体が無効となるのかといった問題が生じます。
この点については、訂正の内容と訂正部分が遺言全体に占める比重によって、判断が異なってくるものと考えられます。
⑶明らかな誤記である場合
上記のように、変更に方式違背がある場合、そのような加除その他の変更は効力を生じません。
もっとも、判例(昭和56年12月18日民集35巻9号1337頁)においては、明らかな誤記である場合には、「自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があつても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではない」とされています。
そのため、明らかな誤記である場合には、訂正に方式違背があった場合であっても遺言が有効となるものと考えられます。
なお、上記判例は、「私は今まで遺言書を書いた記憶はないが、もしつくった遺言書があるとすれば、それらの遺言書は全部取消す」という文面の遺言について、
・「それらの」という文字の前に「そ」と書いてこれを抹消し、
・次の「遺言書」の文字の前に片仮名で「ユ」と書いて消し、
・更に最後の「取消す」の文字の前に「取消消取」と書いてこれを抹消した
ものの、加除変更の方式が守られていなかったという事案において、本件遺言を有効とした原判決を正当としています。
2、自書によらない相続財産目録の加除その他の変更方法
自書によらない財産目録の加除その他の変更についても、自書部分と同様に、「遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」(民法968条3項)」ものとされています。
財産目録自体の変更については、自書であることを要せず、新たに自書でない財産目録を追加する方法をとることもできますが、その場合であっても、①遺言者が加除その他の変更の場所を指示し、②これを変更した旨を付記し、③特にこれに署名することを要し、当然これらは自書で行う必要があります。また、財産目録を差し替える場合には、訂正前の財産目録全体の抹消と押印、訂正後の財産目録への押印をする必要があり、変更前の財産目録は除かずに残しておく必要があります。