2024/07/27 相続・遺言
【療養看護型】寄与分の主張が認められる場合について
本コラムでは、被相続人の療養看護を行った相続人に寄与分が認められる場合を簡単に説明します。
1、寄与分とは
2、療養看護型とは
3、要件
⑴特別な貢献
⑵無償性
⑶継続性
⑷専従性
⑸療養看護の必要性
⑹財産の維持又は増加との因果関係
4、裏付け資料
5、裁判例
6、おわりに
1、寄与分とは
民法904条の2第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの相続財産とみなし、 第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」としています。
この規定により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいる場合には、相続財産から当該寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産として算定することになります。また、当該寄与をした者の相続分は、算定された相続分に寄与分を加えた額となります。
上記の条文にいう「特別の寄与」とは、当該身分関係や親族関係において通常期待される程度を超える貢献をいいます。夫婦間での協力扶助義務や、親族間での扶養義務の範囲内の行為は、ここにいう特別の寄与とは認められません。
本コラムでは、「特別の寄与」のうち、療養看護型で寄与分の主張が認められる場合について、説明します。
2、療養看護型とは
相続人が、病気療養中の被相続人の療養や介護に従事したという場合に、当該療養介護について、「特別の寄与」として寄与分が認められる類型です。
3、要件
⑴特別な貢献
被相続人との身分関係(夫婦関係や親族関係)に基づいて通常期待される程度を超える貢献であることが必要となります。同居及び同居中の家事の負担程度では認められません。
特に、夫婦間での寄与については、夫婦の協力扶助義務が高度のものであることから、それを超える高度な寄与が求められます。
⑵無償性
無報酬又はこれに近いものであることが求められます。報酬を受領していたとしても、財産管理にかかるコストや通常生ずるであろう介護報酬額等に比して著しく低額であるような場合には、認められることがあります。
⑶継続性
介護の期間が相当長期間に及んで継続していることが求められます。実務上は、1年という期間が一つの目安として挙げられることもあります。
⑷専従性
介護が片手間ではなく、相当の負担を要するものであることが求められます。
⑸療養看護の必要性
被相続人において、療養看護を必要とする状態であったことが必要となります。また、医療機関や施設において療養看護がなされていたような場合には、原則としてその期間については、親族等による療養看護の必要性があるものとは認められません。
なお、療養看護の必要性の判断に当たっては、実務上、介護保険における要介護度が、「要介護2」以上の状態であることが一つの目安とされています。
⑹財産の維持又は増加との因果関係
療養看護によって、被相続人の財産が維持されたという因果関係が必要です。具体的には、療養看護を行ったことにより、看護費用の出費を免れたという因果関係が認められる必要があります。
4、裏付け資料
要介護認定通知書や診断書、介護サービスの利用情報等の資料が考えられます。
5、裁判例
・大阪家審平成19年2月8日家月60巻9号110頁
ア 事案の概要
相続人の一人が、以下のような事情から寄与分の主張を行った事案です。
・相続人の妻が昼食と夕食を作り,被相続人方に届けるほか,日常的な世話を行った。
・平成14年2月ころから被相続人に認知症の症状が顕著に出るようになったため、被相続人の3度の食事をいずれも相続人の家でとらせるようにした
・被相続人において、常時見守りが必要な状態となり、被相続人の排便への対応にも心を砕いていた。
イ 裁判所の判断
裁判所は、平成14年以降の3年間については、被相続人に対する身上監護には,特別の寄与があったものと認められると判断しました。一方で、「平成14年2月より以前の被相続人に対する日常生活上の世話は,親族間の扶養協力義務の範囲のものであると認められ,特別の寄与とまではいえない。」として、それ以前の行為については、特別の寄与を認めませんでした。
その上で、具体的な寄与分については、被相続人に対する身上監護については,親族による介護であることを考慮し、1日当たり8000円程度と評価し,その3年分(1年を365日として)として,8000円×365日×3=876万円を寄与分として認めました。
6、おわりに
被相続人の療養看護を行ったとして寄与分が主張されることはありますが、寄与分が認められるには要件を踏まえて適切な主張立証を行う必要があります。寄与分の主張を検討されている方、寄与分の主張をされている方は一度弁護士に相談されることをお勧めします。