2024/07/25 離婚・男女問題
風俗通いと離婚及び慰謝料について
1、はじめに
2、離婚事由該当性
3、慰謝料請求の可否
4、相手方への請求
1、はじめに
本コラムでは、配偶者の他方が性的サービスを提供するいわゆる「風俗店」に通っている場合に、他方配偶者がこれを離婚原因として、離婚することができるのか、或いは慰謝料請求が認められるのかといった点について、説明します。
2、離婚事由該当性
離婚事由としての不貞な行為(民法770条1項1号)とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」(最判昭和48年11月25日民集27巻10号1323頁)ものとされ、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと(性交)が離婚事由として770条1項1号に定める不貞行為であるとされています。
このような「不貞な行為」の解釈からすると、配偶者が性的関係を持った(性交をした)相手が性風俗事業に従事する者であった場合であっても、配偶者が自らの自由な意思で、性的関係を結んでいることから、離婚原因としての不貞行為に当たるように考えられますし、そのような見解も示されています。
他方で、裁判例(横浜家裁平成31年3月27日)としては、夫の派遣型性風俗店(いわゆるデリヘル)利用が離婚事由としての不貞行為に当たると主張された事案で、一回より多く利用したと認めるに足りないこと、仮にあと数回の利用があったとしても、発覚当初から謝罪し、今後利用しない旨約束していることから、離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できないとしたものがあります。
もっとも、仮に「不貞な行為」(民法770条1項1号)に当たらないとされた場合であっても、風俗店通いが別途「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として離婚事由となることはあります。
3、慰謝料請求の可否
配偶者の風俗店通いによって、婚姻関係が破綻したような場合には、同配偶者に慰謝料を請求できる場合があります。
裁判例(大阪高判令和2年9月3日)においても、夫が「複数の風俗店(ピンサロ,ファッションヘルス,キャバクラ等)に通い、友人とのやり取りしているラインの中には女体盛りの企画があり、風俗店の女性店員と食事に行ったりしていた」といった事案で「家族に対する態度や風俗通い等の事情は,夫婦婚姻関係の継続を困難とする程度の行為であった」ことから、婚姻関係破綻の原因は同人によるものが大きいとして、120万円の慰謝料の支払いを命じたものがあります。
4、相手方(従業員等)への請求
配偶者に対して慰謝料請求が認められるかという問題と、風俗店の従業員に対して、慰謝料の請求ができるかという問題は、分けて検討する必要があります。
この点について、近時の裁判例(東京地判令和3年1月18日)では、手淫及び口淫等の性的サービスを提供した風俗店従業員に対し、不貞行為に当たるとして損害賠償請求を行った事案で、「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが,直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く,仮に,婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても,その程度は客観的にみて軽微である」こと、「金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない」ことを理由に、損害賠償請求を認めませんでした。
5、おわりに
配偶者の風俗店通いは、離婚事由への該当や慰謝料請求が認められる場合がありますので、この点で悩まれている方は一度弁護士に相談されることをお勧めします。