2024/07/22 相続・遺言
【金銭出資型】寄与分の主張が認められる場合について
1、寄与分とは
2、金銭出資型とは
3、要件
⑴特別な貢献
⑵無償性
⑶財産の維持又は増加との因果関係
4、裏付け資料
5、裁判例
6、おわりに
1、寄与分とは
民法904条の2第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの相続財産とみなし、 第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」としています。
この規定により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者がいる場合には、相続財産から当該寄与をした者の寄与分を控除したものを相続財産として算定することになります。また、当該寄与をした者の相続分は、算定された相続分に寄与分を加えた額となります。
上記の条文にいう「特別の寄与」とは、当該身分関係や親族関係において通常期待される程度を超える貢献をいいます。夫婦間での協力扶助義務や、親族間での扶養義務の範囲内の行為は、ここにいう特別の寄与とは認められません。
本コラムでは、「特別の寄与」のうち、金銭出資型で寄与分の主張が認められる場合について、説明します。
2、金銭出資型とは
被相続人に対し、金銭等財産上の給付を行った場合に、「特別の寄与」が認められる類型です。被相続人の事業への出資という意味での出資型と(それ以外の財産上の給付という意味での)財産給付型を分けて考える場合もありますが、ここではまとめて記載します。
なお、被相続人が経営する法人への財産上の給付は、当該法人への貢献とされ、被相続人への貢献ではないため、原則として寄与分の主張は認められないものと考えられていますが、法人が被相続人の個人事業に近いようなケースで、被相続人への寄与を認めた裁判例も存在します。
3、要件
⑴特別な貢献
被相続人との身分関係(夫婦関係や親族関係)に基づいて通常期待される程度を超える貢献であることが必要となります。
小遣いや少額の援助といったものでは認められず、それなりの高額の出資が必要となります。
⑵無償性
財産上の給付は、無償又はこれに近いものであることが求められます。貸付であるような場合には、無償とはいえないことから、特別の寄与とは認められません。
⑶財産の維持又は増加との因果関係
財産上の給付の結果、被相続人の財産を維持又は増加させていることが求められます。
4、裏付け資料
相続人名義及び被相続人名義の各預貯金通帳や、贈与契約書、肩代わりした費用についての領収書や請求書といったものが考えられます。
5、裁判例
・神戸家裁伊丹支審昭和62年9月7日家月40巻8号86頁
ア 概要
・申立人(被相続人の妻)は、婚姻当初は主婦として家事に専念していたが、自宅の購人資金を得る目的で働きに出ることになり、いくつかの職場で、計12年間以上働き、収入を得た。
・その間に得た収入は、被相続人の収人の3分の1程度から2分の1程度のものであった。
・婚姻期間は、25年程度であった。
・被相続人は、申立人のそのような協力の下に、被相続人名義の土地及び建物を購入した。
・申立人は自身の名義の財産を有していなかった。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「申立人は被相続人の本件遺産の形成につき特別の寄与があつたものというべきであり,その寄与の額は,本件遺産の3分の1相当額」であると判断しました。
・高松高決平成8年10月4日家月49巻8号53頁
ア 概要
・被相続人は、生前建設会社を設立し、建設業を営んでいた。
・被相続人の経営する会社は借金をして土地を購入したが、同社は多額の借金を抱えて身動きが取れなくなり、同土地は競売申立てを受けることとなった。
・相続人(長男)は、被相続人に1億6000万円の資金提供をし(代わりに土地の一部の譲渡は受けている。)、差し押さえ債権額4億2000万円の弁済を肩代わりする(代わりに土地の残部の譲渡も受けた。)などした。
イ 裁判所の判断
裁判所は、「寄与分については,控えめに評価して遺産全体の20パーセントと認めるのが相当である」として、遺産全体の20パーセントの寄与分を認めました。
なお、このケースでは、直接には被相続人の経営する会社への貢献であったために、被相続人との関係で寄与分が認められるかも問題となりましたが、裁判所は、個人企業に近い面があること、経営基盤の主要な部分を被相続人の個人資産に負っており、経済的に会社と被相続人個人は極めて密着した関係にあったこと等から、被相続人に対する寄与と認めました。
6、おわりに
以上、金銭出資型の事案で、寄与分の主張が認められる場合について簡単に説明しました。まとまった金額がまさに給付される形での寄与がなされているケースのほかに、上記裁判例のように共働き夫婦間の寄与が認められる場合もあります。
寄与分について悩まれている方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。