離婚・男女問題

2024/07/15 離婚・男女問題

交通事故により取得した損害保険金と財産分与

 

 本コラムでは、配偶者の一方が交通事故により取得した損害保険金が財産分与の対象財産となるかについて説明します。

 

目次

1、はじめに

2、裁判例

3、解説

 

1、はじめに

 清算的財産分与は、婚姻中に夫婦がその協力によって得た財産を婚姻の解消に当たって清算するものであるため、婚姻中に夫婦が協力して得た財産が清算の対象財産となります。

 他方で、夫婦の一方が、第三者から無償で得た財産、具体的には相続や贈与で得た財産については、夫婦の協力で得た財産ではなく、各自の特有財産(夫婦別産制を示す民法7621項の「特有財産」とは意味が異なります。)となり、清算的財産分与の対象財産とはなりません。

 そこで、交通事故により一方の配偶者が取得した損害保険金が、財産分与の対象財産となるのか、特有財産となるのかが問題となります。

 

2、裁判例

 この点が争われた事案(大阪高決平成17年6月9日家月58巻5号67頁)において、裁判所は次のように判断しました。

 まず、「財産分与の対象財産は,婚姻中に夫婦の協力により維持又は取得した財産である」としたうえで、

 保険金のうち,①傷害慰謝料,②後遺障害慰謝料に対応する部分は、「事故により受傷し,入通院治療を受け,後遺障害が残存したことにより相手方(損害保険金取得者)が被った精神的苦痛を慰謝するためのもの」であるという理由から、他方配偶者が取得に寄与したものではなく、一方配偶者(損害保険金取得者)の特有財産であるとしました。
 他方で、③逸失利益に対応する部分については、「後遺障害がなかったとしたら得られたはずの症状固定時以後の将来における労働による対価を算出して現在の額に引き直したものであり、上記稼働期間中、配偶者の寄与がある以上,財産分与の対象となると解するのが相当である。」として、財産分与の対象財産となるものとしました。

 

3、解説

 上記裁判例では、損害保険金のうち、①傷害慰謝料,②後遺障害慰謝料に対応する部分と、③逸失利益に対応する部分を分けたうえで、①及び②については、損害保険金取得者(事故の被害者)が被った精神的苦痛を慰藉するためのものであるという理由から、その者の特有財産としています。

 他方で、③逸失利益については、後遺障害がなかったとしたら得られたはずの将来における労働による対価であり、将来における労働による対価は、基本的には他方配偶者の寄与が認められるということから、財産分与の対象財産となると判断したものと考えられます。

 なお、③逸失利益については、上記のように、将来における労働の対価については、他方配偶者の寄与があることを理由とするものである以上、全期間ではなく、他方配偶者の寄与が認められる時点までの逸失利益が分与の対象となるものと考えられます。

 上記裁判例においても、離婚調停成立の前日までの分についてを分与対象財産としています。

 

 

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