2024/07/08 離婚・男女問題
財産分与の概要について
本コラムでは、財産分与の概要について、説明します。
1、財産分与とは
2、財産分与の三つの要素
3、清算的財産分与
⑴清算的財産分与の対象財産
⑵清算的財産分与の対象財産確定の基準時
⑶清算的財産分与の清算割合
⑷具体的な分与方法
4、扶養的財産分与
⑴扶養的財産分与が認められる場合
⑵扶養的財産分与の具体的内容
5、慰謝料的財産分与
6、行使期間
1、財産分与とは
財産分与請求権とは、離婚後、夫婦の一方が他方に対して、財産の分与を請求することのできる権利です。
民法768条1項は、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と定めており、裁判上の離婚についても、同規定が準用されている(民法771条)ことから、協議離婚及び裁判上の離婚のいずれにおいても、請求することができます。
財産分与について、当事者間で協議が調わない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法768条2項)。もっとも、その際の分与額を決定するに当たっての基準ついては、「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」(民法768条3項)とされており、具体的な基準が明文で定められているものではありません。
もっとも、学説や裁判例の積み重ねにより、一定の基準や考え方は示されているため、以下、説明します。
2、財産分与の三つの要素
財産分与の性質としては、①清算的要素、②扶養的要素、③慰謝料的要素の三つがあるものと考えられています(③慰謝料的要素については、含まないとする見解もあります。)。
以下、これらの三つに分けて説明します。
3、清算的財産分与について
婚姻中に夫婦が得た財産は、原則として夫婦が協力して得たものと考えられるため、一方が財産の名義がその者にあるからといってこれを独占することは、不公平である(或いはそもそも実質的には共有財産である)ことから、離婚の際にはその清算として、財産を分配するというものです。
⑴清算的財産分与の対象財産
上記のように、清算的財産分与は、婚姻中に夫婦がその協力によって得た財産を婚姻の解消に当たって清算するものであるため、婚姻中に夫婦が協力して得た財産が清算の対象財産となります。「協力」については、個々の財産毎に具体的な協力を要するというものではなく、婚姻中に夫婦が取得した財産であれば、基本的には財産分与の対象財産に含まれます。
したがって、財産所有者の名義が一方の単独名義になっていても、婚姻中に夫婦の協力によって得た財産であれば、分与の対象になります。
他方で、夫婦の一方が、第三者から無償で得た財産、具体的には相続や贈与で得た財産については、夫婦の協力で得た財産ではなく、各自の特有財産となり、清算的財産分与の対象財産とはなりません。
なお、家庭裁判所の実務においては、夫婦が婚姻中に取得した財産は、それがいずれかの特有財産でないことが明らかでない限り、原則として夫婦が協力して形成したものとされます(秋武憲一「離婚調停(第4版)」334頁(日本加除出版、2021))。
具体的には、婚姻後に取得した不動産や、株式、預貯金といったものが挙げられます。
⑵清算的財産分与の対象財産確定の基準時
清算的財産分与は、上述のように、夫婦の協力によって形成された財産を分与するものであるため、夫婦の協力が終了する「別居時」を基準として、その時点で存在する財産を分与するものと考えられ、実務ではこの考え方が一般的です。
もっとも、一部裁判例の中には、一切の事情を考慮して裁判時(口頭弁論終結時)としたものもあります。
⑶清算的財産分与の清算割合
清算割合、つまり財産を分ける割合については、夫婦が協力によって得た財産の清算である以上、分与対象財産の取得及び維持に対する寄与割合に応じるものと考えられます。
ここでの寄与は、財産取得への直接的、言い方を変えれば経済的な面での寄与のみならず、家事労働等での寄与も含まれます。
実務上は、寄与割合については、基本的には2分の1ずつとする、2分の1ルールが用いられています。もっとも、夫婦の他方に特別な資格や能力があり、それによって財産が形成された部分が大きいといった事情がある場合には、寄与割合に差が出る場合もあります。
なお、令和6年5月に成立した民法の一部改正によって、民法768条3項に後段として、「婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」との文言が追加されており、寄与の程度が異なることが明らかでないときには、2分の1となるものとされています。
⑷具体的な分与方法
具体的な分与の方法としては、他方が金銭を給付して分与する方法のほか、現物での分与も認められます。審判においては、金銭清算が原則となるものであり、現物分割は、必要性や相当性が考慮された上で、これらが認められる場合に例外的に認められるものと理解されています。
4、扶養的財産分与
扶養的財産分与は、「離婚後経済的自立困難な配偶者に対する離婚後扶養として、あるいは、婚姻生活に起因し、離婚後に生じる経済的不利益・不均衡を是正するための離婚後補償として、財産的給付を行うもの」(二宮周平編『新注釈民法(17)』399頁〔犬伏〕(有斐閣、2017)とされます。
その目的については、「離婚後における一方の当事者の生計の維持を図ること」(最判昭和昭和46年7月23日民集25巻5号805頁)であるとされ、一方当事者が、離婚後自立して生活できない場合に補充的に認められるものと考えられています。
⑴扶養的財産分与が認められる場合
扶養的財産分与は、上述のように、一方当事者が、離婚後自立して生活できない場合に補充的に認められるものと考えられています。
具体的には、扶養的財産分与を受け取る側(請求する側)の資力、健康状態、就職可能性(就労困難性)、扶養すべき者の有無といった事情や、支払う側の資力、所得見込み、扶養すべき者の有無といった事情が考慮されます。
なお、清算的財産分与と離婚慰謝料により、生計を維持できる財産が分与されるのであれば、基本的には、扶養的財産分与は認められないものと考えられています。
もっとも、離婚慰謝料を考慮することについては、離婚慰謝料により支払われるべき財産分与の額を減じるというのではこれを求める意味がなくなること、損害賠償は被害者に生じた損害を填補するために使われるべきものであることから、これを考慮すべきでないとする見解(松本哲泓「事例解説 離婚と財産分与」196頁(青林書院、2024))も示されています。
⑵扶養的財産分与の具体的内容
具体的な支払額としては、離婚後、1年間ないし3年間、最大5年間程度の婚姻費用相当額とすることが多い(秋武憲一「離婚調停(第4版)」375頁(日本加除出版、2021))ものとされています。
支払い方法としては、一括払いのほか、定期金払い(毎月一定額を支払う方法)による場合もあります。
5、慰謝料的財産分与
学説においては、財産分与に慰謝料的要素が含まれるのかについては、争いがありますが、裁判実務では、財産分与に際して慰謝料的要素の考慮を求めることも可能であり、裁判所がこれを含めて財産分与額を決定することも可能です。
また、慰謝料については、不法行為に基づく損害賠償請求として、別個に請求することも可能ですが、二重に請求することはできません。
6、行使期間
財産分与の申立ては、離婚のときから2年以内にする必要があります(民法768条2項但し書き)。
なお、令和6年5月に成立した民法の一部改正によって、2年以内との期間制限が5年以内と変更されています。もっとも、現時点(令和6年7月)において、施行はされていないため、その点は注意してください。