離婚・男女問題

2024/07/05 離婚・男女問題

短期の別居期間であっても有責配偶者からの離婚請求が認められたケースの紹介

 

本コラムでは、短期の別居期間であっても有責配偶者からの離婚請求が認められたケースについて紹介します。

 

目次

1、はじめに

2、別居期間の目安

3、裁判例の紹介

4、おわりに

 

1、はじめに

 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合については、基本的に下記の3つの要件を基準に判断されています。

①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと

②その間に未成熟の子が存在しないこと

③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のないこと

 本コラムでは、上記3つの要件のうち、①について、比較的短期の別居期間であっても離婚請求が認められたケースについて、紹介します。

 

2、別居期間の目安

 裁判例においては、目安として10年を超えると「相当長期間」と認められやすく、10年未満の場合には、個別事情を考慮して、判断されている傾向があります。

 基本的には、相当長期間か否かは、「両当事者の年齢及び同居期間との対比において」(最判昭和62年9月2日民集4161423頁)、判断されるものとされていますが、これらを数量的に対比するのみではなく、別居後の生活費の負担状況や財産分与の提案内容、相手方配偶者や子の意向等も考慮される場合もあります。

 

 

3、裁判例の紹介

 以下では、比較的短期の別居期間であっても離婚請求が認められたケースを紹介します。あくまでも、例外的なものを集めたものになりますので、一般的にこれらの別居期間で有責配偶者からの離婚請求が認められているものではないことにはご留意ください。

 

⑴別居期間約6年(東京高判平成14626日家月55巻5号150頁)

ア 概要

・夫有責配偶者(不貞)

・別居期間約6

・婚姻期間約28年(同居期間約22年)

・別居前に妻と外国人男性との交遊に、夫に疑念を抱かせるものあり

・子二人(いずれも成人(大学卒業))

・妻に相当の収入あり

・別居後しばらくの期間夫の口座を妻が管理、その後夫が毎月20万円送金

・夫は離婚に伴う給付として自宅建物を分与、ローンも完済まで支払い続ける意向

イ 裁判所の判断

 裁判所は、下記のような事情を考慮して、夫の離婚請求が信義誠実の原則に反するものとはいえないと判断しました。

・別居期間は6年以上経過していること

・もともと会話の少ない意思の疎通が不十分な夫婦であったこと

・別居前も妻と外国人男性との交遊に夫の側から見て疑念を抱かせるものがあり、そのころから夫婦間の溝が大きく広がっていたこと、

・子が二人とも成人して大学を卒業しているなど夫婦間に未成熟子がいないこと

・妻は相当の収入を得ているとこと

・夫は離婚に伴う給付として妻に現在同人が居住している自宅建物を分与し同建物について残っているローンも完済するまで支払続けるとの意向を表明していること

 

 この裁判例では、もともとの夫婦関係や、夫婦関係の悪化について妻の行動にも要因があること、妻の収入、未成熟子の不存在、離婚給付の意向及び内容といった面が影響しているものと思われます。

 

⑵別居期間約2年(東京高判平成26612日判時223747頁)

ア 概要

・婚姻期間約9年(同居期間約7年)

・別居期間約2

・子二人(4歳と6歳)

・有責配偶者妻(不貞)

・夫には年900万円以上の収入あり。

・不貞前に、夫の側から妻が自身の言うことを聞かないとして離婚を切り出している

・また、夫は妻に自身の言うことを聞かせようとして,妻の携帯電話やメールを使えないようにしたり,クレジットカードをキャンセルしたりした

・双方関係修復のための具体的な行動なし

イ 裁判所の判断

 裁判所は、「有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つには,一家の収入を支えている夫が,妻以外の女性と不倫や不貞の関係に及んで別居状態となり,そのような身勝手な夫からの離婚請求をそのまま認めてしまうことは,残された妻子が安定的な収入を断たれて経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい,著しく社会正義に反する結果となるため,そのような事態を回避するという目的があったものと解される」としたうえで、「仮に,形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても,実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ,その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである。」と述べました。

 そのうえで、①妻が婚姻関係を継続することはできないと考えるようになったことには、夫が妻の人格を否定するような行動をとったこともあり、夫にも相応の理由があること、②妻による養育監護の状況に特に問題はないこと、③もともと夫が妻との離婚を求めていた経緯があること、④夫には約961万円の年収があり、離婚請求を認めたとしても,精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもないと考えられることといった事情から、妻の離婚請求は信義則に反するものではなく、許容するのが相当であると判断しました。

 

 この裁判例は、別居期間が約2年と有責配偶者からの離婚請求が認められた事案の中では、かなり短いものですが、有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つが上記のようなものであることを前提に、破綻に至るまでの相手方配偶者の対応や、離婚を認めた場合の夫の不利益等を考慮して、離婚請求を認めています。

 

⑶別居期間約2年8か月(横浜家裁川崎支判平成2939日)

ア 概要

・別居期間約2年8か月

・同居期間約1年9か月

・夫33歳、妻32歳

・有責配偶者夫(不貞)

・子なし

・婚姻費用を月々10万円支払い

・既に180万円の支払い+解決金320万円の支払い申出

イ 裁判所の判断

 裁判所は、別居期間は約2年8か月であるところ,同居期間が約1年9か月であることや双方の年齢を考慮すると,別居期間が相当の長期間に及んでいるということができるとしたうえで、婚姻費用及び解決金の支払い実績、今後支払うことを申し出ている解決金の額を考慮し、離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれるとはいえないとして、夫からの離婚請求を認めました。

 

4,おわりに

 以上、有責配偶者からの離婚請求において、別居期間が比較的短期であっても離婚請求が認められたケースについて紹介しました。もっとも、これらの裁判例は、個別事情によるものであり、一般的にこのような短期間で認められているものではありません。逆に、事情によっては、比較的長期間にわたる別居であっても認められなかったケースも存在します。

 有責配偶者からの離婚請求については、請求する側、される側のいずれであっても、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

 

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