離婚・男女問題

2024/07/02 離婚・男女問題

有責配偶者からの離婚請求が認められる場合について~裁判例の紹介~

 

 本コラムでは、有責配偶者からの離婚請求が問題となった裁判例をいくつか紹介します。

 

目次

1、はじめに

2、三つの要件

3、裁判例

4、おわりに

 

1、はじめに

 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合について、判例(最判昭和62年9月2日民集4161423頁)は、下記の3つの要件を示しました。

①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと

②その間に未成熟の子が存在しないこと

③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のないこと

 以下では、それぞれの要件の概要を説明したうえで、有責配偶者からの離婚請求を肯定した裁判例と、否定した裁判例について、紹介します。

 なお、有責配偶者からの離婚請求の概要については、別のコラムで説明しておりますので、そちらをご覧ください。

 

2、三つの要件

⑴別居期間

 別居期間については、一律に何年というように決められているものではなく、①両当事者の年齢及び、②同居期間との対比において、相当の長期間か否かが判断されるものとされます(最判昭和6292日民集4161423頁)。

 また、その後の最高裁判例(最判平成2118日家月43372頁)では、「別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足り」ないとしたうえで、別居後の生活費負担や財産分与についての相応の提案、妻が夫名義の不動産に処分禁止の仮処分をしていることといった事情も考慮して、離婚請求の認容を判断しており、個別事情を踏まえて判断されることになります。

 

⑵未成熟の子が存在しないこと

 上記判例(最判昭和62年9月2日民集4161423頁)からすると、「未成熟の子が存在しないこと」は、必須の要件、つまり、未成熟の子が存在している場合には、有責配偶者からの離婚請求は一切認められないようにも思えますが、その後の判例((最判平成628日家月46巻9号59頁))では、「未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではな」いとされており、未成熟の子が存在する場合であっても、離婚請求が認められる場合があります。

 なお、未成熟の子とは、未成年であることが一つの目安にはなりますが、これのみで決まるものではなく、親の監護なしでは生活を保持しえない子を意味するものと理解されています。

 

⑶特段の事情の不存在

 特段の事情の判断に当たって、裁判例では、婚姻費用の支払い状況(実績)、離婚給付(慰謝料や財産分与)の提示内容、配偶者の収入や生活状況、子の状況(障害の有無等)といったものが考慮されています。

 

3、裁判例

⑴肯定した例

ア 最判平成元年9月7日民集157457

(ア)概要

  ・別居期間15年6か月

  ・同居期間約4年10か月

  ・子ども19歳

  ・夫有責配偶者(他の女性と同棲)

(イ)裁判所の判断

 裁判所は、夫が有責配偶者であることを前提に、

①別居期間については、約156か月に及んでいることから、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であるとし、

②未成熟の子の存在については、長男は既に19歳の半ばに達しているから、両者の間には既に未成熟の子が存在しないというべきである

として、上記⑴及び⑵の要件を満たすものと判断しています。

その上で、

③特段の事情については、

「離婚によって被るべき原審認定のような経済的・精神的不利益は、離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないというべきであって、未だ右にいう「精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態」に当たらないとして、離婚請求を認めなかった原判決を破棄しました。

 

イ 最判平成5年11月2日家月46940

(ア)概要

  ・別居期間9年8か月

  ・同居期間17年2か月

  ・夫53歳、妻54歳

  ・有責配偶者妻(不貞)

  ・子ども二人

  ・夫側にも暴力行為や陰湿な嫌がらせ有

  ・子どもは成年に達しており未成熟子でない(共に学生だが、25歳と23歳)

(イ)裁判所の判断          

 「夫婦関係の破綻について主たる責任は被上告人(妻)にあるが,上告人(夫)にも少なからざる責任があり,夫婦の別居期間が相当の長期間に及んでいて婚姻を継続し難い重大な事由があるとした原審の判断は,正当として是認することができる」として、妻からの離婚請求を認めました。

 

ウ 最判平成2年11月8日判時1370号55頁

(ア)概要

 ・別居期間約8

 ・同居期間23年

 ・夫52歳、妻55

 ・夫有責配偶者(不貞)

 ・子二人(留学生と大学生)

 ・別居後間もなく不貞相手との関係解消

 ・離婚に当たって具体的で相応の誠意がある提案

 ・別居後も妻及び子らの生活費負担

 ・妻は、夫名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行

 ・子どもたち(成年)は、離婚について当事者の意思に任せる意向

(イ)裁判所の判断

 裁判所は、上記の事情を考慮したうえで、「格別の事情の認められない限り、別居機関の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われる」として、離婚請求を棄却した原判決を破棄しました。

 

⑵否定した例

ア 最判平成元年328日家月41767

(ア)概要

 ・別居期間約8

 ・同居期間約26

 ・夫60歳、妻57

 ・有責配偶者夫(不貞)

 ・子4

(イ)裁判所の判断

 裁判所は、別居期間は8年余であり、双方の年齢や同居期間を考慮すると、別居期間が相当の長期間に及んでいるものということはできないとして、離婚請求を棄却した原判決を正当なものと判断しました。

 

イ 東京高判平成91119日判タ999号280頁

(ア)概要

 ・別居期間約13年間

 ・同居期間約6年間

 ・子2人(高校3年生と中学2年生)

 ・有責配偶者夫(不貞)

 ・妻には毎月25万円を送金(夫の収入は月額80万円+賞与)

 ・妻は実家から援助を受けている

(イ)裁判所の判断

 裁判所は、有責配偶者からの離婚請求で、未成熟の子がいる場合であっても、「有責性の程度、婚姻関係の継続への努力の程度、相手方配偶者の婚姻継続についての意思、離婚を認めた場合の相手方配偶者や未成熟の子に与える精神的・経済的影響の程度、未成熟子が成熟に至るまでに要する期間の長短、現在における当事者、殊に有責配偶者が置かれている生活関係等諸般の事情を総合考慮して、その請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときは、その請求を認容することができるものと解すべき」としたうえで、特に夫の有責性の程度、婚姻関係の維持への努力の欠如、未成熟の子どもが成熟に至るまでに要する期間を考慮して、離婚請求は認容できないものと判断しました。

 詳細は省きますが、他の女性との関係を断とうとせず、そのような関係を妻において受忍するのが当然であるとの態度であったこと等有責性の程度が大きいことや、月々の送金が十分でないこと等の事情がある事案でした。

 

4、おわりに

 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合については、別居期間が一つの目安にはなりますが、それのみで決せられるものではなく、個別の事情により、結論は異なりますので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

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